▼安全性と有効性
前号で三木俊二さんから意見を頂いた。連載を読んで頂き、紙上討論できることに感謝したい。いろんな誤解を生むことも懸念しつつ書いてきたので、言葉足らずの部分を捕いながら3回にわたって意見を述べさせて頂く。今回は菅政権のワクチン政策について。
今、新型コロナワクチンを巡って起こっているのは異常な事態だ。未だ対象となるウィルスの全容が捉えられておらず、数種の変異も確認されているというのに、承認まで1年以内という異例の早さだ。米製薬大手ファイザーは「mRNAワクチン」という新しい手法で製造しているので期間を短縮できたというが、この手法でつくられたワクチンを人で使用することも初めてだ。安全性も有効性も十分に確認されていないと、国内外の多くの専門家が指摘している。保管にはマイナス70度が必要で扱いにくい代物だ。なぜこんなことが可能となるのか。通常の手続きをすっ飛ばしているからだ。ふつうワクチン開発は接種までに10年以上に及ぶことも珍しくない。基礎研究、モデル動物を用いた非臨床試験、ヒトで安全性を評価する第1相、投与量や投与回数を検討する第2相、大規模な被験者を対象に感染症の流行地域で有効性を評価する第3相という長いステップ。その上で規制当局による審査と承認だ。それでも副反応(ワクチンの接種に伴う、免疫の付与以外の反応)や薬害は後をたたなかった。
今回の承認は第3相以前で「緊急使用の許可」だ。これも米国初だ。根拠法について、具体的には知らないが、米国には01年9・11事件後に、生物学的破壊兵器テロや感染症パンデミックによる「非常事態宣言」が宣言されると、保険福祉省長官に開発途中の医薬品の将来的購入契約や、未承認の医薬品を許可する権限が付与される法律が制定されている。医療版の「ショックドクトリン(危機・惨事利用型資本主義)=戦争や災害で受ける大きなショックの後に生じる心理的・精神的空白を衝いて人びとをコントロールし、独占的利益を得る」との指摘がある。今、このショックドクトリンが世界を覆っている。自らも巻き込まれていないか、冷静に見極める必要性を感じてならない。
ワクチン接種を目前に、米国民の42%、フランスでは61%が反対しており政府は慌てている。当然の不安や警戒心だと思う。
こんなワクチンを買った菅政権に問い糾したい。「あなたの家では完成もしてない商品の購入契約をするのか」。コロナ禍で自殺者が急増している。必要なのは、怪しいワクチンではなく、断たれようとする命を救うこと、そのために充分な税金を注ぎ込むこと
▼「拒否の自由」こそ
購入する6000万人(1億2千万回)分が想定している対象者は大人の大半だ。「接種無料」だから、今の世相は「接種は当然」の方向へ傾斜する。ここでは「接種の自由」ではなく、「拒否の自由が奪われる」ことの方が問題となると思う。今回成立した改定予防接種法的で接種は「努力義務」だ。医療・介護従事者、高齢者が優先という。行政、医療・医学会、職場などを通じて接種が励行され、「ワクチンがあるから大丈夫、もっと働け、拒否は我まま、感染したら責任とれるのか。副反応が恐い?救済措置があるやろ」という空気が広がることを懸念する。実際、ワクチン大国アメリカでは強制接種、「拒否で解雇」はよくあるという。その中で医療機関の労働組合が最高裁まで争って解雇撤回を勝ちとった報告がある。
介護や医療は密な労働だが、それ以上に問題なのは予防や防護のための物や器具の不足、さらに免疫力が低下し感染リスクが高まる労働環境や生活状態に置かれていることだ。他のエッセンシャルワーカー(医療や交通機関などライフライン維持のための職種に従事している人たち)も同じだ。そんな身体に、深刻な被害の可能性もあるワクチンが打たれるのは恐い。コロナは介護・医療のひっ迫を加速した。「介護・福祉総がかり行動」などが要求し続けてきたのは介護職の大幅賃上げと充分な職員確保、そのための国費投入と実効性ある具体策だ。今年も強く要求した。
▼丁寧な説明とは
これまで製薬会社が自らすすんで正確な資料を全面開示し、「ワクチンの効果とリスクを丁寧に説明した」試しがあったろうか。この間のワクチン開発過程での重篤な事案についても詳しい発表はない。また「丁寧な説明」があったとして、私たちが正しく真偽を検証できるだろうか。真実を知る専門家は口を閉じ、製薬会社の都合のよい論文を発表する研究者や機関には資金が提供されてきた事はくり返し暴露されてきた。「あなたが自由に選択した、結果責任もあなた」と切り返し、製造責任追及や補償要求を封じる武器にもなることを警戒したい。
また法による副反応救済措置規定は、現実には限定的適用で、切り捨てられ苦しんでいる被害者が多いことも知ってほしい。国による救済は、私たちの税金を使って、製造販売元の責任、補償を肩代わりすることでもある。まさに資本の利益のために。(つづく)