12月4日、福井県や近畿地方の住民らが関西電力大飯原発(福井県おおい町)3、4号機の国の設置許可を取り消すよう求めた行政訴訟で、大阪地裁は許可取り消し判決を下した。国による安全審査の妥当性を否定したこの判決の意義は大きい。(本間千秋)

 森鍵一(もりかぎ はじめ)裁判長は、いわゆる基準地震動について「規制委員会の判断に看過しがたい過誤、欠落があり、設置許可は違法」とした。

 03年、名古屋高裁金沢支部が高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の設置許可を無効と判断をしたが、福島第一原発事故後の新たな規制基準が設けられてから原発の設置許可を取り消す司法判断は初めてだ。

▽基準地震動

 今回の裁判で、「審査のガイドラインには、基準地震動の設定にあたっては過去に起きた地震の規模の平均値より大きな規模の地震が起きることも想定し、その『ばらつき』(不確かさ)を考慮する必要があると書かれている。原子力規制委員会は、『ばらつき』を考慮する場合、平均値に何らかの上乗せをする必要があるかどうかということすら、検討していない。審査の過程には看過しがたい誤りや欠落があり違法だ」という判断を示し、設置許可を取り消した。

 関電は、耐震設計の目安とする基準地震動(最大の揺れ)の算定で、原発周辺の地層の調査や過去の地震のデータなどから基準地震動を856ガル(加速度の単位)と算定し、規制委が福島第一原発事故後の13年に策定された原発の稼働を認めるための新規制基準に適合するとして設置許可を出していた。これにより18年3月に3号機、5月に4号機が再稼働した(現在2機とも定期検査で停止中)。

 

▽国の安全基準に疑問

 判決が疑問視したのは、電力会社が原発で想定される地震の最大の揺れだとする基準地震動(Ss)である。電力会社が耐震設計の目安として原発周辺の地層や想定される震源、活断層の長さ、過去の地震データなどから算定するものであり、原子力規制委員会がチェックするとしている。

 しかし05年以降、基準地震動を上回る地震が東北電力女川原発など4つの原発周辺で観測されている。福島第一原発事故では核燃料が溶け落ちるメルトダウンが発生、水素爆発も起き大量の放射性物質が広範囲に飛散した。この事故後に発足した原子力記載委員会は13年に新規制基準を策定し、関電は新基準に基づいて大飯原発3、4号機の基準地震動を856ガルに引き上げ、規制委も了承した。

 これに対し、元規制委員長代理の島崎邦彦・東大名誉教授(地震学)は、16年に大飯原発の基準地震動について関電の計算方式では揺れを過小評価する恐れがあると指摘し、規制委に再考を求めた。規制委が再計算し、「再計算は不適切だった」と非を認めながら、「見直さない」と突っぱね、田中俊一委員長(当時)は記者会見で「島崎氏が言っていることには根拠がない」と言い切った。

 ところが同じころ、地震動の計算方法をつくる政府の地震調査委員会内でも、規制委の審査姿勢に疑問の声が上がっていたことが判明している。16年4月の熊本地震後、複数の計算方法を採用するよう求めていた。だが規制委は地震学者の継承を無視し、関電の計算結果は「問題なし」と判断。新基準に適合したと決定し、18年に大飯原発が再稼働した。

▽基準地震動の計算式

 住民側は関電の計算式は海外を中心に起きた53個の地震データの平均値に基づくもので個々の地震には平均値から外れた「ばらつき」があると主張、基準地震動は1150ガル以上になる可能性があると耐震性の不足を訴えた。

 森鍵裁判長が判決で重視したのも、この「ばらつき」である。規制委が審査ガイドを作る過程で「計算式よりも大きな地震が発生することを想定すべきだ」との指摘があったにも関わらず、国が上乗せの必要性を「何ら検討しなかった」と厳しく批判したのである。地震動の想定は設備に必要な耐震性を判断する根幹である。判決が確定すれば、新規制基準に適合したとされている9原発16基は運転資格を失うことになる。

▽国は判決受け入れよ

 原告の市民グループ共同代表のアイリーン・美緒子・スミスさんは、「判決は、地震国の日本で原発事故から市民や環境、経済を守るための最後の警告だ。これを機に原発を動かさないで欲しい。国側は控訴すべきではない」と訴えた。同じく共同代表の小山英之さんは「すばらしい勝訴判決だ。来週には原子力規制委員会に行き、判決の指摘を受け止めるように申し入れたい」と話した。弁護団長の冠木克彦弁護士も、「国側は裁判の中で大きな地震がきた時にどうするのかと説明を求めても、論理的な証拠を出せず、『専門的な知見に司法は口出しをするな』という主張もしている。判決はそうした不誠実な姿勢を糾弾したものとも考えられる」「本当に大きな影響力がある」と述べた。原告や支援者からは「国は全ての原発の設置許可を取り消せ」という声が相次いだ。