86歳の女性が長崎市に対し、原爆投下翌日に入市被爆したとして被爆者健康手帳の交付を求めていた裁判で、12月14日、長崎地裁は「親族らの証言は信用性を否定するものとまでは言えない」と、長崎市に手帳の交付を命じる判決を言い渡した。訴えを起こしていたのは長崎市の峰暁美さん。峰さんは原爆投下翌日の8月10日、家族と一緒に疎開先から稲佐町にあった自宅に向かう途中、「爆心地付近を通って入市被爆した」。昨年、被爆者健康手帳の交付を申請していたが、市は「入市被爆を確認できる資料がない」などと申請を却下した。

 判決で天川博義裁判長は、「原告の親族らの証言に信用性がある」と訴えを認めた。「親族らの証言は、原爆投下後、長期間が経過していることなどから、齟齬(そご)はあっても信用性を否定するものとまでは言えない」とした。これに対し長崎市は、「判決の詳細を確認した上で、国とも協議を行ないながら、今後の対応を検討していきたい」とした。原告側の弁護士は、「被爆者が高齢化し、被爆者健康手帳がより必要となってきている。裁判所が却下処分を違法だと判断していることを受け止め、手帳交付のあり方を見直してほしい」と話している。

 原告の親族や支援者は12月15日、市に控訴断念を求める申し入れ書を提出した。原告女性の親族男性(71歳)らが市役所を訪ね、「原告は高齢で一刻も早い援護が待たれる。控訴することなく援護にあたるよう切望する」との申し入れ書を市原爆被爆対策部に手渡した。応対した中川正仁部長は、控訴について明言を避けたが「判決を重く受け止めている。国と協議の上、できるだけ早く結論を出したい」と話した。国と長崎市は控訴を断念し、直ちに被爆者健康手帳を交付するべきだ。