昨年12月6日、伊藤公雄さん(京都大学名誉教授)の講演会がPLP 会館(大阪市北区)で開かれ、55人が参加した。主催は実行委員会。

 伊藤さんは、日本学術会議新会員任命拒否に至る安倍と菅のクーデター政治と、これに対抗するケアの精神とデモクラシーの再生、そして多様性を担保する調整力と交渉力の重要性について語られた。学術会議問題について踏み込んだ話となった。(以下、講演要旨/文責・見出しとも本紙編集委員会)

▼ケアの精神とデモクラシーの再生を

▽政府が変えた選出法

 先進国ではどこでも科学アカデミーと言われる科学者の政府から独立した科学者の組織を国がつくっている。日本では、明治政府が1879年に東京学士院をつくったのがはじまりだ。その後、戦争への反省に踏まえて1949年、日本学術会議をつくった。

 会員の選び方は一貫して学士による選挙だったが、政府が自分の都合で変えてきた。学士のなかで大きな影響力のある政治勢力は共産党なので、学士選挙では共産党の会員が多くなる。そこで83年に学会による推薦に変えたが、学会でも共産党の影響力は強い。そこでさらに05年に学術会議の推薦に変えた。今度はそれも気に入らないと、「任命拒否」をやった。政府による明らかな違法行為だ。

▽国際問題へ発展も

 今回拒否された6人のうち、3人は、民科協(民主主義科学者協会)。この人たちについては9月28日の時点で拒否が伝わったようだ。あとの3人については拒否の理由がはっきりしない。一人については、アキヒトと仲がよいことが気に入らなかったらしい。京大の一人については、京大も一人拒否しておこうという具合で、あいうえお順に決めたのではないかと思われる。 

 今回の事態は大きな転換だ。暴力を伴わないクーデターとも言うべきとんでもない転換である。

 予算10億円というけれど、210人の会員と2000人の連携会員にたいする会議の交通費も、年度末が近づくと予算不足で自腹、給料なんかあるわけがない。因みに諸外国の科学アカデミーの予算と比べると、アメリカは277億円、イギリスは134億円、中国は1兆円。今回の日本政府による学術会議人事への介入は、国際的にも科学アカデミーから懸念表明が出されるだろう。

▽権力の暴走を止める

 安倍が国会で、「自分は立法府の長だ」と発言したとき、多くの人は安倍の「無知」だと思っていた。しかし、そうではないようだ。実は、JR 東海の葛西敬之(現・名誉会長、国鉄分割民営化をめぐる「改革三人組」の一人)が04年のレポートで、「議員内閣制の総理大臣は、アメリカの大統領よりもオールマイティーである」「建前(三権分立)は別として、法的には行政府の独裁は可能」と述べている。安倍・菅のねらいは行政府の独裁だ。そのクーデターの手始めが学術会議問題だったのだ。

 行政府のこのような暴走をストップさせなければならない。この現実にたいして対抗することができるのは〈ケアの精神とデモクラシーの再生〉であり、具体的には、社会連帯経済やヨーロッパで広がるミュニシパリズムの運動だと思う。