核兵器禁止条約が1月22日に発効する。17年7月、国連で122カ国・地域の賛成により採択された。3年3カ月後の昨年10月24日、中米ホンジェラスが批准書を国連に提出し発効に必要な50カ国・地域に達した。その後、ベナンが51カ国目の批准国になった。国際条約だけで核兵器を廃絶することはできないが、「絶対悪、非人道・非合法化」の要求とともに、大きな一歩となるだろう。
▽核の時代の始まり
広島・長崎の被爆から75年。「核と人類は共存できない」。核は廃絶できるのか。見果てぬ夢であっていいのか。世界になお、約1万4千発の核兵器があり450基の原発がある。核兵器はより高度化し、原発の新設も計画される。
1945年7月、アメリカは人類史上初めて3個(プルトニウム型2、ウラン型1)の原子爆弾・核分裂爆弾を開発製造し、7月16日、プルトニュウム原爆1発をニューメキシコ州アラモゴードで実験爆発させた。残る2発をわずか3週間後に数10万人の頭上、広島(U型)・長崎(Pu型)に投下した。きのこ雲の下は「この世の地獄」(多くの被爆者の表現、証言)という惨状となった。「核の時代、核の世紀」の始まりだった。
戦後は、米・ロ(当時ソ連)による世界の核軍事・政治支配となり、抑止力という威嚇である2000回に及ぶ核実験が繰り返された。核分裂の“利用”は原子力潜水艦から、原子力発電へと次々と拡げられた。中国、印、パキスタン他も実験、保有国となる。世界中に放射能汚染が拡がり、新たな被曝者、ヒバクシャを生み出した。
▽増強される核弾頭
19年、トランプのアメリカは米・ロ間の中距離核戦力廃棄条約(INF)の破棄を一方的に通告し、対抗的にロシアも効力停止を宣言した。中国も中距離核ミサイルを増強し、「北のミサイル脅威」などが強調され、日本はイージス・アショアの中断から「敵基地攻撃能力」論を浮上させている。
核拡散防止条約(NPT)は米・英・ロ・仏・中国の5カ国の核保有を認め、他の国々の保有を禁じるという、核独占のための条約と言っても過言ではない。さらにNPTに参加しないインド、パキスタン、朝鮮(北)が核実験、核保有国となっている。あらゆる核実験を禁じる包括的核実験禁止条約(1996年)も米、印、パキスタンなどの反対により発効は見通せない。
▽体験した悪夢
核兵器禁止条約の発効に、広島被爆者のサーロー節子さんは「常に亡くなった人たちといっしょにいる思いで活動してきた。体験した悪夢を思う。やっとここまでこぎ着けた」と条約の成立を喜んだ。被爆者の怒りと命がけの訴え、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)の不断の活動があり、1300万筆を超えるヒバクシャ国際署名が寄せられ、被爆二世・三世らの願いと行動があった。
多くの国々、核実験の被害を受けた太平洋など地域の人々、国際社会の市民・団体の粘り強い「核廃絶」への運動が、核兵器禁止条約を成立させたのだ。広島、長崎の被爆者の残された命をかけた訴えは、条約前文に「核兵器の使用、実験による被害者にもたらされた、受け入れがたい苦痛と被害に心を留める」と明記された。
一方、先進国による「原子力資源の独占」に対する途上国の不満などから、「平和利用」を止めることに言及できなかった。繰り返される原発事故、人類史上初レベル7という福島第1原発事故を体験し「原爆と原発は同じ」と言われながら、その課題もこれからである。
核兵器禁止条約成立、発効には、75年を超える被爆者の営々たる反戦・反核の意志と運動が根底にある。しかし、これで世界は一気に世界は核兵器の廃絶に進むわけではない。なによりも、戦争被爆国である日本が核兵器廃絶へ背を向けている。今こそ核廃絶に向けた、今日的な行動が求められている。核保有国は、これからその態度と理念、核による軍事、政治を厳しく問われる。
▽高まる日本への不信
日本は「核兵器廃絶決議」案を毎年、国連総会に提出している。昨年は12月7日、国連総会本会議で賛成多数により採択されたが、賛成は150カ国と1昨年から10カ国減少し、賛同する共同提案国も半減した。核兵器禁止条約に触れない日本政府への不満が核兵器を持たない国で高まり、日本の姿勢に国際的な不信が広がっている。
1994年から国連総会に同様の決議案を提出し、採択されてきた。核兵器使用による壊滅的な人道上の結末に、18年までは「深い懸念」を示していたが、一昨年に続き昨年も「認識する」との弱い表現にとどめ、核兵器禁止条約にも直接触れなかった。米国の「核の傘」に依存し、条約に反対する立場をとるためだ。共同提案国の総数は、昨年の56から26へと半減。核兵器禁止条約が採択された前年の16年の109カ国と比べ、4分の1に落ち込んだ。
日本も批准している核拡散防止条約(NPT)再検討会議では、過去に合意された「履行すること」との文言を今年は削除した。米国が未批准の包括的核実験禁止条約(CTBT)に批准を促す表現を弱めた。「核保有国の立場に近づくような」決議案に、保有国の米英が共同提案国として名を連ねた。日本への不満は昨年11月の国連総会第一委員会(軍縮)でも明らかに。ニュージーランドは「核兵器禁止条約の位置付けを下げている」と採決を棄権し、メキシコも「NPTTに関する合意を弱めるもの」と批判し、委員会採択での賛成は昨年より9カ国減った。
▽アメリカへの配慮
11月19日、参院外交防衛委員会では、今回の表現の変更について「米国の賛成を得るためではないか」と追及され、外務省軍縮不拡散・科学部長は「核保有国と非保有国の両方から支持されなければ、文書はまとまらない」と答弁。加藤官房長官も、国連総会本会議での賛成国減少について「核兵器のない世界を実現するには、核兵器国を巻き込んで核軍縮を進めることが不可欠」と強調し、米国への配慮を認めた(12月8日、記者会見)。
「7年8カ月の安倍政権と後継政権」は、核廃絶へ後ろ向きな日本の態度をさらに大きく後退させた。被爆者と世界の人々への、その責任と罪は深い。
▽日本こそ批准すべき
では、アメリカの「核の傘下にあるから(できない)」という論理は、どうなのか。政府は、(核廃絶へ)「保有国と非保有国の橋渡し。保有国との溝をつくらない」「各国一致し取り組む共通基盤の形成を促す」と表明するが、それこそが国際社会からきびしい批判にさらされているのだ。
いくつかの言葉を紹介する。「米国の核の傘下あっても、禁止(廃絶)したい私たちの思いは別問題だ。“核兵器に守られていても”批准していい。戦争被爆国である日本が声をあげ、変える。率先し条約を批准し、憲法9条を大事にしたい」(要旨、高田明・ジャパネット高田創業者、『日刊ゲンダイ』11月6日)。「核廃絶は実現できない夢ではない。究極目標などという言葉を使わせない。有期限の目標である」(秋葉忠利・元広島市長、15年8月6日、広島)、「(条約は)見えにくかった『核は悪』という真実を突きつけ、核兵器禁止を迫っている。実効性を持つかどうかは、米国の『核の傘』依存国、とりわけ日本の世論にかかる」(田井中雅人『核に縛られる日本』より)。「核兵器は倫理にも理性にも反する。原発は水と電気を与え続けなければ、原爆と同じ」(樋口英明・元裁判官、20年8月6日、広島)
残る命と気力を振り絞り訴え続ける被爆者は、「私たちは同情を求めているのではない、世界中の人々に行動して欲しい。そのために語り続けている」と口々に訴えている。私たちはヒロシマ・ナガサキ、フクシマ後の世界に生き、生きてきた。国連や国際条約にのみ依りかかるのではない。必要なのは私たちの意志である。悪の兵器と核発電、数万年に及ぶ放射能とその汚染を造り続けてはならない。