▼HPVワクチンとは
大阪大チームなどによる子宮頸ガンワクチン(HPVワクチン)についての研究結果発表の新聞記事。私はそれを暗い気持ちで読んでいた。毎年新たにガンを診断される人は約100万人、18年の死亡者は37万5千人。うち子宮頸ガンは1万人、死亡者は2800人。それぞれ1%だ。HPV(ヒトパピローマウィルス)は性交渉などで感染するが多くが自然に消える。前がん病変に至った場合でも大半はガンに至る前に消失する。子宮頸ガンは検診で発見できるし治療もできる。
ワクチンの効果は前ガン病変のリスクを低下させるだけで、その絶対リスク減少は0・1〜0・7%にすぎず、ガン予防効果そのものは証明されていない。ワクチンは小学6年〜高校1年までの女子が対象で、計3回接種となっているが、ワクチン効果が5年以上続くという証明はない。その効果は20歳前後で消える。子宮頸ガンの発症はほぼ20代後半からで、多くが30代〜40代なのだ。重篤な被害のリスクまで冒して、数百万人の女子を対象にHPVワクチンの接種をすすめる意味はない。
ワクチンには、米メルク社の「ガーダシル」と英グラクソ・スミスクライン社の「サーバリックス」がある。
もともと「開発途上国」向けに開発されたのだが、インドでは「ガーダシル」の有用性と受容性を調べる研究プログラムが行われ、死亡を含む多数の問題が生じたため、インド医療研究評議会がプログラムの即時停止を命じた。このワクチンが06年以降、アメリカやヨーロッパで導入されたのだ。
▼日本でも承認
欧米で被害報告が続出するワクチンを、日本政府は、09年10月(サーバリックス)と11年7月(ガーダシル)に承認を出した。接種費用は公費負担なので接種者は急増し、有害副反応の報告数も増加した。国は13年4月、定期接種プログラムの中に組み入れたが、6月には「ワクチンと持続的な疼痛の間に因果関係が否定できない」と、積極的勧奨を中止した。
都道府県知事にたいし「周知方法については、個別通知(対象者がいる保護者への郵送通知)を求めるものではない」(13年6月14日労働省健康局長通知)と通知。以降、接種率は1%に。これは13年3月、被害者が「全国子宮頸ガンワクチン被害者連絡会」を結成、活動を開始した成果だ。しかし国と製薬企業は全面解決要求に応じなかったため、被害者は「真の救済や再発防止にはほど遠い。製薬企業は被害を認めようとせず、積極勧奨再開まで働きかけている」と、16年6月、訴訟を決断する。現在、全国の4地裁で132人の原告が国およびメルク社、スミスクライン社を相手にたたかっている。
16年2月までの重篤な有害事象・有害反応は1600件近くに及んだ。製造販売業者と医療機関からの報告のみなので、実際の被害者はさらに多いはずだ。
▼被害の実態
「市から家に通知がきて、受けなければならないものだと思い、1回目しんどかったが副反応のことは知らずがまんして3回受けた結果、こんな状態に」と被害者は訴える。被害症状は運動、感覚、自律神経や内分泌、認知や感情や精神の機能などに関する障害など数十におよぶ。全身の激痛、起き上がれないほどの倦怠感、中には19歳の時すべての記憶がなくなったという被害者も。
健康に過ごしていた少女たちが、接種によって、耐えがたい症状に襲われ、治療法がない困難の中で何年も苦しみつづけているのだ。
▼接種勧奨をやめよ
昨夏、厚労省は「情報提供のため」と称して、HPVワクチンリーフの改定案を作成した。そこには、さまざまな副反応があり、苦しみ続ける被害者いるにもかかわらず、その治療法がないこと。他のワクチンと比較してその危険性が突出しおり、被害の救済は限定的であること。国が7年間積極勧奨を中止してきたことや子宮ガン予防効果の証明がないことなど、重要なことが書かれてない。
むしろ子宮頸ガンを50−70%予防できるとの誤解を招き、ガンの恐さをあおる内容だ。
被害者と弁護団は、被害者を無視し、誤った情報を提供して接種を勧奨するものだとして撤回を求めた。
しかし国は昨年10月、前記の「個別通知を求めるものではない」との部分を削除するなどした都道府県宛の改定通知を出した。そして改定されたリーフと、接種を誘導する案内が市町村から対象者に送達された。「接種しろ」という通知だと受け取る人は多いだろう。人生を奪う被害が再び少女たちに及ぶかもしれない。(つづく)