12月12日、女性国際戦犯法廷20周年・オンライン国際シンポジウムが開催された。日本、韓国の3団体が中心になって準備された。参加者は国境を超えて◯◯○人。開会にあたって、世界中の性暴力被害者への黙とうがささげられ、2000年女性国際戦犯法廷(以下「法廷」)ドキュメンタリーのダイジェストを上映。第1部は三つの講演と当時の関係者からのメッセージ(「法廷」の中心だった故松井やよりさんの姿も)。第2部は、日本軍「慰安婦」・戦時性暴力サバイバー21人の証言映像(60分)が上映され、「次世代からの提言〜未来へつなぐ」をテーマにアジア各地と日本の若者たちが活動報告と展望を語りあった。

▽不正義を公然と批判することが連帯の道

 基調講演の「法廷」主席検事のドルコボルさん(オーストリア)は、「法廷」を振り返りながら「慰安婦」問題解決の運動がアジアの女性たちの草の根運動(被害者たちの声を記録する運動)が、被害者の勇気ある決起を呼び起こし、アジアから世界にひろがっていった。現在の#MeeTooやブラック・ライブズ・マターも、有色人種やマイノリティーの人権のための、草の根運動から始まったと高く評価した。

 国際司法は長く女性を裏切ってきたが、「国際法」をジェンダーの視点から見直し、民衆の手に取り戻したのが「法廷」であったと指摘。判決のポイントは、加害者個人の責任だけでなく「国」の最高責任者天皇と10人の軍責任者を有罪としたこと。国家有責は必然的に国家賠償を伴う。それがなくては問題解決ではないな、多様な視点から「法廷」の意味を説いた。最後に、「私は日本の政治家たちが「慰安婦」制度について、国家の責任を否定できるのかまったく理解できない」と述べ、「みなさん一人ひとりが女性の平等のためのたたかいに関わるようよびかける。不正義を公然と非難することが『慰安婦』被害者との連帯を示す1番の方法だ」と締めくくった。

▽「植民地主義支配」告発の契機となった「法廷」

 2番目の講演は「法廷」の日本検事団のひとりだった明治学院大学の阿部浩巳さん。

 阿部さんは「法廷」は、「慰安婦」問題の背景には「植民地主義」があることを明確にし、欧米「先進国」による植民地支配に対する告発の「法」的な射程を広げる契機になったこと。日韓条約に示されるように、日本は「併合、支配」を国際法的に有効としてきた。それが、90年代になって歴代首相は植民地支配の不当性を一応認める見解に転じた。しかし、安倍政権以後それは「浮遊」している。その結果、徴用工問題や「慰安婦」問題を嫌悪する政治的社会的風潮が広がり、国家による制度的差別が放置され、植民地主義が強まっている。それを端的に示すのが朝鮮高級学校の「高校授業料無償化」からの排除である。今こそ植民地主義の総括に向きあおうと話した。

▽運動の終わりは世界が変わるとき

 3番目は挺対協理事長・李娜榮(イナヨン)さん。韓国中央大学の女性学研究者だ。「『法廷』から性暴力を処罰した韓国#MeeToo 運動へ」をテーマに韓国の女性運動と現状を語った。

 韓国では70年代〜80年代、女性たちのたたかいで「女性への暴力や抑圧」を禁止する法制度が生み出され、「慰安婦」問題もその流れの中で女性運動の一つの柱になっていった。00年以後、女性の社会進出を背景にそれはさらに進み、性売買問題も社会的大問題となり市民運動的な課題ともなっていった。一方で「バックラッシュ」とのせめぎ合いも激しくなった(20年の正義連攻撃もその流れである)。

 今、多くの10〜20代の女性たちが「慰安婦」運動に参加している。特に若い世代の女性は、セクハラ、パワハラ、経済格差、失業、性暴力に直面している。16年に起きた地下鉄江南駅殺人事件は女性嫌悪=ミソジニー犯罪といわれ、彼女たちの不安や怒りを爆発させた。ソウルでは1万2000人の「性暴力根絶」デモがおこなわれた。#MeeTooは「性の自己決定権」を含みながら、10代の中・高校生にも広がっている。「慰安婦」問題は、彼女たちにとって「いつか自ら経験するかもしれない性暴力」を想起させる。ハルモニたちが無力な被害者ではなく、生き抜き、告発した人権活動家であると知った彼女たちは、次々と運動に参加した。挺対協・正義連もシンボルカラーを黄色に変えた。デモでの必須アイテム「羽ばたく黄色のナビ(チョウ)」は「明るく希望に満ちた場」の象徴となった。

 李娜榮さんは、「被害者中心のアプローチ」「戦時性暴力の根絶」の原点を踏まえ、若い女性たちの問題意識を反映しながら、30年を迎えた運動をこれからも進めていく決意を述べた。そして「この運動の終わりの日は、地球上の多くの人々が安全で平和な世の中で平等に生きることができる日になるだろう」と結んだ。

▽貴重な証言をむだにしてはならない

 第2部では日本軍「慰安婦」・戦時性暴力サバイバーの証言。南北コリア、中国、台湾、フィリピン、インドネシア、東ティモールの女性たちだ。金学順さんをはじめ多くの方がすでに故人となった。かつて接した言葉だがあらためて胸にささる。存命の方々が発する言葉はとても生々しい。多くの地域、国では公的な保障も少なく、コロナ禍で厳しい状況にあることも伝えられた。

 最後に「次世代からの提言〜未来につなぐ」として、フィリピン、台湾、韓国、在日朝鮮人、日本人の若者たちが自分たちの活動と今の課題、未来への希望などを語りあった。 

▽参加した男性からの感想を紹介したい。

 天皇を裁くと公言することがいかに重いことであったか、そしてその法廷を実現したことの意義の大きさを、20年を経てあらためて受け止めました。草の根の活動、小さなことでも関わっていくことの重要性を感じた。映像によるサバイバーの証言はやはり衝撃的なものでした。すでに多くの方々が亡くなる中、一刻も早い問題解決が求められていますが、そこに向けて取り組みを広げるためにも証言映像は大きな役割を果たすと思います。各国の若い世代が、これまでの取り組みを継承し、一部で連帯しつつ活動をしていることの報告は心強いものでした。

 この日のシンポジウムは、小休憩をはさんで5時間に及ぶ濃密なプログラムが組まれた。当日の資料は50ページ近くで、これもまた貴重な学習資料である。

 末筆ながら本シンポジウムを企画、準備、開催してくださった、主催者のみなさんのご苦労に敬意と感謝を表します。