市東さんの農地取りあげの強制執行=強制収用をめぐる裁判(請求異議裁判)闘争は、最高裁に舞台が移った。市東さんと弁護団の訴えを、東京高裁はことごとく退け、成田空港会社(NAA)が主張もしなかったことを、NAAに代わって代弁し、国・NAAを擁護した。その最たるものが、成田空港の機能強化・拡張に関する主張である。

 農地法裁判と請求異議裁判を通して、市東さんの農地収用の必要性について、NAAが主張してきたことは唯一「成田空港の完成」である。成田空港の経過を含めた良し悪しや暫定完成か否かの問題を横においても、「成田空港完成」は衆知のことである。そして市東さんの耕作地は、現空港の運用や機能に何の障害ともなっていない。100年にわたって何の問題もなく耕し続けてきた市東さんの農地の強制的取り上げなど、まったく根拠も理由もない。

▽壊滅状況の成田空港

 昨年1〜3月コロナ禍の始まりとともに、とりわけ国際便を主力とする成田空港はたちまち便数・旅客数は激減。そしてターミナルの縮小運用、緊急事態宣言の発出となる4月にはB滑走路の閉鎖に追いこまれた(7月には再開されたが、事態の好転によるものではない。空港縮小が固定化・長期化し朽ち果てることを恐れてのことだ)。この間、国際便は前年実績95%以上の減であり、今も続いている。国内便はコロナの小康状態やGoToトラベルなどによることがあったが、それでも50〜60%である。唯一「好調」といわれる貨物便も、行き場を失った主力の旅客便を貨物便に転用しているというだけのことである。駐機場にはANAやJALの航空機がひしめき合う状態である。

 成田空港会社(NAA)は、12月に20年度中間決算(4〜9月)を公開、中間期損失424億円、連結業績(20年4月〜21年3月)予想783億円。ちなみに関西3空港を運営する関西エアポート(KAP)も、中間期損失178億円を計上しており、全国の空港が惨憺たる状況にある。

 さらに深刻なのが航空業界である。ANAは、昨年4〜6月期1088億円の損益、通期予想は見通せないとしているが5100億円前後になると見られている。JALも昨年4〜6月1310億円、7〜9月期850億円と、ともにとてつもない赤字を積み重ねている。LCC(格安航空会社)では、エアアジアジャパン、ジェットスターが事実上の事業撤退、ピーチアビエーションも20年度決算に94億円の赤字を計上した。航空業界は、希望退職、給与カット、出向、副業拡大、そしてもっとも深刻なANAは大型機の売却や国際線の羽田へのシフトを発表するなど、なりふりかまわぬ生き残り戦に入っている。

 成田空港内の470ある飲食店などテナントも事業から撤退や休業に次々と追い込まれている。「空港城下町」である成田市は、法人市民税の落ち込みなど18億円の減収見込みといわれる。

 成田空港とこれを取り巻く環境は、まさに青息吐息の状況にあると言って過言ではない。

 世界の83%の航空会社が加盟するIAEA(国際航空運送協会)でさえ、この状況は2025年頃までは変わらないとしている。GoToキャンペーンなど菅内閣の描く「V字回復」など夢のまた夢ということである。そればかりかコロナ禍の拡大と長期化は、航空・空港関係だけでなく、私たちの取り巻く環境を激変させていくことは明らかだ。

▽裁判所がNAAを代弁

 成田空港がこうした壊滅的状況にあるなかにあっても、政府・NAAは11月末、成田空港の拡張、第3滑走路建設・B滑走路延長にむけた家屋査定調査=買収を開始するとともに、政府は拡張のための来年度予算として50億円を計上した。

 そして、市東さんへの不当判決を下した東京高裁は判決文で、「発着回数も顕著に減少し、今後の回復の見通しも明らかでない状態」としながら、「現時点において、将来にわたっても復活しないと認めることはできない」と、NAAになり代わって主張しているのだ。

 「耐え忍びさえすれば、次はV字回復」的な希望的観測は、年末年始からのコロナの急拡大のなかで一切失せ、成田空港を取り巻く環境、危機的状況が長期にわたって一段と進行していくことは明らかだ。東京オリンピックも危機打開の切り札でなく、大きな重荷となっていくだろう。

 豊かな土壌と自然条件をもつ北総台地と農民、人間生活にとって不可欠でベースとなる農業こそ、いよいよその輝きを増すときである。市東さんの農地を守るたたかい、反対同盟、周辺地域住民のたたかいは、そうした転換点をつくりだす起点となる。(野里豊)