私の主張を「現代医療はペケ」「中核医療センターや専門病院より自然治癒力を推奨」と受けとめている方の誤解を解くために補足する。WHOでは代替医療をCAM=補完代替医学(医療)と統一している。日本の普通の医療機関がおこなっている現代医療以外のすべての療法の総称だ。代替医療と現代医療の両者を適切に組み合わせて用いるのが統合医療。ベースは現代医療の医療者も多い。「両者を同じ土俵に置き、勝敗や正否を判断することはできない。得意とする分野が異なる」(連載18)。
「自然治癒力」とは生物に備わっているバランス回復力のことで、近現代医療と並列的に並べられる概念ではない。今も医学部で「医学の父」と教えているヒポクラテスは2500年前に「自然治癒力」を重視した。多くの代替医療がこれを癒しの原点に置いている。それが等閑視されたのはつい最近のこと。人間の身体を機械とみなす生命観と近代医学が発展する19世紀後半以降だ。20世紀後半、統合医療の第一人者となったアンドルー・ワイル医博(アリゾナ大学医学校教授)は、近代西洋医学の解剖生理学では、切り傷の修復などひとつとっても解明できないことに着目し、身体に備わった癒し・再生をつかさどる働きにたいし、「治癒系」という概念を提唱した。「自然治癒力」を医療の原点に置くとは、「病気を治すのは医者・医療機関、患者は受け身」という関係から「患者が主体、医療者は自然治癒力を引き出すサポーター」という関係への転換でもある。それはエネルギー資源多消費型の医療から、持続可能な医療システムへと軸を移していくことにもつながる。(つづく)