先月21日、民主党のジョー・バイデンが第46代合州国大統領に就任した。敗れたドナルド・トランプは就任式を欠席した。現職大統領の欠席は152年ぶりのことだという。

 バイデンは就任初日から17件の大統領令に次々と署名した。そこでは「WHOからの脱退の撤回」「パリ協定への復帰」「環境保護規制の復元」「人種の平等と疲弊した地域をサポートする連邦発案」「イスラム教入国禁止令の撤回」「不法移民取締令の撤回」「国境の壁建設計画の撤回」「トランプ政権によって強制退去を命じられていた約1万人のリベリア移民の滞在資格の延長」など、トランプ政権からの「決別」を印象づけるものが多く見られた。

 コロナ関連では、政府のコロナ対策の再構築を指示し、住居の立ち退き及び差し押さえ猶予の延長や学生ローン凍結の延長などを命じている。また「性別と性的指向の差別を禁止する公民権法第7編を徹底する」という内容の大統領令も出しており、注目を集めている。

 バイデン政権がトランプ政権の4年間で分断が顕在化した米国家の再統合を国民に対して強くアピールしていることは、こうした一連の大統領令からもうかがうことができる。しかし、それが成功する保証はない。なぜなら、米国内の分断は今に始まったことではないからだ。それは1980年代のレーガン政権時代の新自由主義的改革から始まり、ソ連東欧圏の崩壊と90年代のクリントン政権時代の情報通信革命によるグローバリゼーションの促進によって、国内の貧富の格差が拡大の一途をたどった。90年代の前半には、戦後、米国で長く忘れられていた「階級」という用語が社会を分析のツールとして復活した。

 21世紀に入ると、米国は新自由主義グローバリゼーションという「帝国」的世界新秩序の下に地球上のあらゆる地域を編入するために、「テロとの戦い」(アフガニスタン戦争、イラク戦争)に突入する。それはグローバリゼーションに抗う勢力を「テロリストあるいはテロ支援国家」と規定して取り締る、治安警察的な行為としての戦争であり、従来の国家間戦争とは明らかに様相を異にしていた。それは「グローバルな内戦」と呼ぶべきものであった。

 この「テロとの戦い=グローバルな内戦」とは終わりなき戦争である。なぜなら、新自由主義グローバリゼーションとはそこに編入された国や地域に格差と貧困を拡大することによって、その「繁栄」を謳歌できるきわめて不平等なシステムだからだ。その矛盾は、グローバリゼーションを領導してきた米国内においても例外なく蓄積されていった。

 そこで虐げられた人びとの怒りに火をつけたのがトランプだった。トランプは米国の分断を顕在化させたのであって、トランプが分断を生みだしたのではない。だから「トランプとの決別」を演出するだけでは、米国内の深刻な矛盾を解決することはできない。本当に必要なことは、新自由主義グローバリゼーションとの決別である。それをトランプとは違う形で成しとげることができるのか。それが人びとに問われているのである。

 次回は、米国内で進行している分断の実相を見ていこう。(つづく)