東京五輪は中止すべきである。菅義偉首相は、「人類がコロナに打ち勝った証にする」と五輪開催に執着するが、五輪開催とコロナ克服とは何の関係もない。このような詭弁を弄する前に、目の前で進行している事態を冷静に見据えるべきだ。

▽開催の影響は深刻だ

 国内ではようやくワクチン接種が始まったところだ。先月、WHOのテドロス事務局長は、開発途上国でワクチンを確保できていないことに「破滅的な倫理上の過ちを犯しかねない」と警鐘を鳴らした。こうした状況で、世界206の国と地域から選手団とその関係者を迎え入れるというのか。

 東京五輪では熱中症対策だけで5000人の医療関係者の確保が必要で、PCR検査などのコロナ対策が加わると、それが1万人から1万5000人に増える。それはひっ迫する医療現場に壊滅的ダメージを与えかねない。

 今年に入ってコロナ関連の倒産件数は1000件を超えた。休業・廃業の企業も1万件にのぼる。

 中小零細企業では、19年から20年にかけて、設備や店舗などの固定資産を減少させた。零細な宿泊業や娯楽業ではその規模は50%〜60%になる。

 解雇や休業は女性労働者、とくに非正規雇用労働者に集中している。

 にもかかわらず日経平均株価は30年半ぶりに3万円の大台に乗せた。政府の巨額の財政出動や企業融資の拡大が、弱者に犠牲を集中する差別的な経済構造を是正するのではなく、逆に格差と貧困を拡大させているのだ。

 多くの人びとがこうした危機的状況を実感しているからこそ、「中止・再延期」を望む声が8割を超えているのだ(2月1日、日経新聞調べ)。

▽「中止」こそレガシー

 女性差別発言で辞任に追い込まれた森喜朗大会組織委前会長は、2月2日、自民党本部の会合で「コロナがどういう形だろうと必ず(五輪)をやる」と強調した。「犠牲者が増えても五輪を強行する」というのだ。

 このように、五輪とは人びとを威圧しながら、巨大な利権が渦巻く世界最大のイベントである。そこでは、「特権ある人びとはオリンピックに便乗して私腹を肥やし、開催地の一般市民は大会のあとさまざまなかたちで隅に追いやられ、丸め込まれている」(ジュール・ボイコフ)。その通りのことが私たちの目の前で進行してきた。「復興五輪」を掲げながら、東日本大震災の被災者、原発事故の被害者のことは忘れ去られようとしている。今度は、「コロナ克服の証」を掲げて、さらなる犠牲をこの「祭典」に供そうというのだ。

 もはや五輪を強行する道理も正義もない。「中止」の決断こそ、東京五輪のレガシー(遺産)となる。(坂口竜一)