この連載の(上)では、米国内の「分断」は1970年代末から始まった米国内の新自由主義的な構造改革とグローバリゼーションによって生みだされてきたものであり、トランプ前大統領は、その分断を煽り立て、顕在化させたに過ぎないことを指摘した。(中)では、大統領選の結果から見えてきた、トランプ支持者たちの意識に注目した。彼らは世界の動きから目を閉ざし、内向化を深めていた。それでは、トランプとは違うやり方で新自由主義グローバリゼーションと決別する方法はあるのか。それが最終回のテーマである。
91年のソ連崩壊と、その後のグローバリゼーションの急進展は、資本主義を擁護する人びとにとってはまさに福音であった。米国の国際政治経済学者、フランシス・フクヤマはこれを『歴史の終わり』(92年)と呼んだ。グローバリゼーションによってその矛盾を最終的に解決した資本主義は未来永劫、発展を続けていくのだと。しかしその後、フクヤマ自身が自説を撤回せざるを得なかったように、グローバリゼーションの展開が人びとにもたらしたのは、不平等に満ち、戦火の絶えない世界だったのである。
いま米国内でブラック・ライブズ・マター(BLM)などの新しい民衆運動の主力となっているのは10代から20代前半の若者たちである。Z世代(96年〜12年生まれ)と呼ばれる彼らは、新自由主義グローバリゼーションの世界のなかで育ってきた。彼らが先行する世代違うのは、偏見に囚われることなく、資本主義の矛盾を直視していることだ。昨年2月、米フォーブス誌が実施したアンケート調査によれば、18歳から29歳までの有権者で最も多くの支持(38%)を得たのは民主社会主義者を自称するバーニー・サンダースだった。もちろん、若者たちが求めているのは、ソ連型の社会主義ではない。それはコモン(社会的共有財産)の再生を軸とした公正と正義が実現される社会であり、協同組合型の社会主義と言ってもよいだろう。彼らの主張はSNSで、欧州、アジア、アフリカ、中東、ラテンアメリカの若者たちの主張とともに、リアルタイムで共有されている。
それは20世紀の社会運動がまったく経験したことない新たな状況だ。若者たちの運動は、新自由主義グローバリゼーションにかわるもう一つの世界の現実性を垣間見せているのある。(おわり)