「GIGAスクール構想」という言葉を耳にしたことがありますか? GIGAとはGlobal and Innovation Gateway for Allの略であるとか。全国の小中高および特別支援学校の児童生徒一人ひとりに、タブレット端末を持たせるという文科省の方針です。

▽児童にタブレット貸与

 この施策は18年に5カ年計画としてスタートしました。最初の2年間で準備計画、後の3年間で各年小学校2学年分、中高校1学年分の児童・生徒にタブレット端末を配布・貸与するというものです。予算は、国が端末調達費の半分を支出(ただし端末1機の上限4万5千円)。

 各自治体は残りの半分と校内のネットワーク整備、接続料等を負担します。学校教育のIT化は、目に見える住民サービスなので、各自治体とも力を入れ、予算確保と業者選定に大わらわ。特に市町村の教育委員会と学校は、コロナ対策通達が毎日、山のように下りてくるなか、先進校視察、機種選定、業者選定など目の回るような忙しさです。

▽GIGAに2292億

 本年度の「新型コロナウィルス感染症緊急経済対策」による補正予算に、総額2292億円のGIGA予算が計上され「GIGAスクール構想」が前倒しされることになりました。後半3年間で予定していたタブレット端末整備を、本年度末までにで一気におこなうことに。これはIT産業への、コロナ対策費のバラマキではないでしょうか。

 大変なのは各自治体です。半額負担分の予算の修正や支払いをどうするのか。また全国一斉に大量のタブレット端末が発注されると、一気に品薄になります。今年度中の納期が難しくなり、取引を辞退する業者が続々と現れています。

▽現場に戸惑いの声

 正直なところ、現場にとって急なタブレット導入は有難迷惑です。コロナ対策だけでも連絡や打ち合わせが増えている上に、機器の使い方やネットワークの研修、児童生徒のタブレットの使い方に関するルールづくりや共通理解など、どんどん会議の時間が増加。

 そもそもGIGAスクール構想自体に、歓迎の声より戸惑う声のほうが大きいというのが実感です。最近増加しているネットトラブルのため、学校現場は指導に悩んでいます。スマホの持ち込みが禁止されているところがほとんどいう実態で、持ち帰り自由のタブレット端末を各児童生徒に手渡すことが何を意味するのかわかっているのでしょうか。

 確かに細かいことを校則で禁止する、学校の閉鎖性を指摘する声にうなずける面もありますし、タブレット端末を有効な学習ツールとして活用することに異議を唱えるつもりもありません。問題なのは、今回の施策が教育行政を超えたところで閣議決定され、しかも経済政策として下ろされた結果、新たな混乱と多忙化を学校現場にもたらしていることです。

▽30人学級の早期実現を

 安倍政権の下でで休校になった3カ月間の授業の空白は、夏休みを短縮したり学校行事を削るという多大な犠牲を払うことで、ほぼ何とか埋め合わせる目途がつきました。全国の教職員の工夫と努力の賜物です。

 この休校期間をリモート会議や授業で、穴埋めができるかのような幻想が広がりました。しかし多くの大学で通信教育だけでは授業が完結しないことが明らかとなりました。大学教育でさえ難しいのですから、小中高教育ではさらに難しいと言わざるを得ません。

 日教組が要求し続けているのは、早期30人以下学級の実現です。多忙化を解消し、子どもと教員が触れ合う時間が何にも増して必要です。義務教育35人学級実現に必要なは、国の負担額は年間380億円と言われています。だったら、GIGA予算2300億円を投入すれば、直ちに解決するはずです。

 旅行社やIT関連企業にはコロナ対策費をばらまいて、「大いなる公助」を与えておきながら、多くの持たざる人びとにに「自助」を押し付ける菅政権。これこそはまさに、人災というべきものです。(安芸一夫)