さながらSNS上のデモだ。「会議に女性が入ると時間がかかる」—森喜朗(東京五輪組織委会長)のこの女性差別発言に批判が殺到している。「#森氏 引退してください」や「#わきまえない女」がトレンド入り、在日大使館職員らによる「#Dontbesilent(沈黙しないで)」、英BBCが拡散した「#Mori resign(森、辞めろ)」など。Change.orgの署名も、1週間で14万7千筆以上(2月11日現在)。特に、20代30代の人たちが、はばかることなくストレートに発言している。これは時代を画する動きだ。
▽男性優位主義
森は、一貫して権力の中枢に君臨してきた人物。日本社会の男性優位主義や性差別主義というジェンダー・バイアスを全身で体現している。発言はそういう価値観と構造から発せられている。職場でも地域でも家族でも学校でも、政治でもスポーツでも、上から下まで、作られた〈男らしさ〉〈女らしさ〉というジェンダーによる差別と格差が支配している。パワハラ、セクハラが横行し、談合と忖度、どう喝と排除で、異論を許さず物事が進められていく。森発言は、そういう日本社会の現実をさらけ出した。
ジェンダー・バイアスが強いスポーツ界においても、異議を唱える女性の発言がはじまっている。そういう事態に苛立ち、「女の分際で。黙って従え」と見下し、男性優位主義をむき出しにどう喝しているのだ。
#MeTooの声を上げた女性たち、「わきまえない」女性たち、それに共感する声が、日本社会に根ぶかくつづいてきた男性優位主義の構造を可視化し、そこに大きな亀裂を作りだしはじめている、という画期的な事態だ。
だから、橋下徹が「森さんの気持ちがすごい分かる」、産経新聞が「(森発言批判は)『正しさ』で厚化粧した集団いじめ」といい、SNS上でも、森発言擁護がふきだしている。男性優位主義をまもろうとして、引きずり出されている。
▽人間性を取り戻す
ジェンダー・バイアスの構造を突き破る女性の、そして男性の声が大きくなればなるほど、社会変革は進む。それは、同時に、経済成長主義と利益極大化、人間破壊と自然破壊を旨とする資本主義社会の本性と対決する力だ。それは、弱さをかくし、強さを誇示する〈男らしさ〉の呪縛から、男性自身が解放されていくことでもある。それは、資本の支配から人間性を取りもどすための過程だ。森辞任はもちろんだが、それでは終らない。