
国際婦人年の1975年、世界史に刻印すべき女たちのたたかいがあった。それは、11年間連続(2019年時点)でジェンダー・ギャップ指数世界トップのアイスランドでおこった。
アイスランドの人口は大阪府高槻市くらい。10月24日、「女性の休日」として知られるこの日、男女の賃金差別や性別役割分担に抗議して、国中の女性の約9割、22万人が仕事と家事を放棄して街へ!
写真を見ると、広場は少女から高齢者まで女性たちの輝く笑顔で埋め尽くされている。「平等闘争=階級闘争」と書かれた横断幕や林立する「リブマーク」。
ロイター通信は「男性たちは最初、スト突入の警告を全くの冗談と受け取っていたが、本当とわかってビックリ。女性がいないと1日も国がもたないことがわかったようだ」と配信。朝日新聞は「女性ゼネスト アイスランドは完全マヒ」と報じた。
電話サービスも銀行も工場も新聞も学校や託児所も動かず、子づれで出勤する父親の姿もあったようだ。「SNSもない時代、女性の労働者団体が呼びかけ、メディアや草の根の口コミで広く伝えられた。… 高齢女性も、夫に『今日はあなたにコーヒーは淹(い)れません』と町へ。男性たちは、女性なしでは社会が回らないことを突きつけられた」(2020年駐日大使インタビュー)
5年後、ヴィグディス・フィンボガドゥティルさんが、世界で初めて民主的選挙で女性大統領となった。彼女は「次の日にはすべて元通りに。しかし女性が男性と同じように社会の柱を支えているという認識を持てた。たくさんの会社や組織が打撃を受け、女性の力や必要性が明らかになった。根本から人びとの意識を変えた」と語っている。
▽連帯した行動の蓄積
たたかいはこれで終わらない。05年の10月24日には午後2時8分に、10年には午後2時25分に、16年には2時38分に、女性たちは職場を去った。ストの時間は女性の差別賃金の額に相当する。そしてついに18年1月、世界初の「性別による賃金格差を禁止する」法律が施行された。
賃金差別の解消とあわせて、出産・育児の政策がある。子育て費用は収入の6・7%という軽負担、00年に育児休暇制度が整い、現在は両親にそれぞれ6カ月ずつ。さらに2人でシェアできる6週間の育休期間がある。
そんな環境の中で、出産時の未婚率は70%をこえた。離婚も気にせず、同性婚、ひとり親家族や兄弟姉妹で母親や父親が異なる「パッチワーク・ファミリー」が一般的だという。
公務が女性の安定した働き場となってきた。現在は首相を含め国会議員の約4割が女性。それでも油断は禁物と考えている女性がしっかり存在している。
45年前、アイスランドと日本はそう違いはなかっただろう。女性の賃金は男の6割だったし、次期駐日大使は「2000年以前は、育児に十分に関わることができず、悔いが残っている」(3月7日付朝日新聞インタビュー)と語っている。
女性の自殺が急増する日本だが、「わきまえない女」たちが次々と声を上げている。アイスランドは教えている。連帯した行動の積み重ねが社会を変えることを。
(立川てるみ)