
3・11東京電力福島第1原発事故を契機に設立され、被ばく労働を余儀なくされている収束・廃炉・除染の作業における労働問題に取り組んでいる「被ばく労働を考えるネットワーク」が、3月11日、原発事故10年を機に「声明」を発表した。「声明」は、実現不可能な「廃炉ロードマップ」によって労働者が犠牲にされている現状を告発し、計画の根本的な転換を要求している。以下、その要旨を介する。
【国・東電は、原発関連労働者の安全・健康を最優先する構造転換を行い、全ての労災被害者に補償を行え!】(要旨)
1.福島第一原発の廃炉ロードマップの方針を転換し、長期管理を行え!
破損した原子炉の放射線環境は過酷で深刻だ。国・東電は、40年間でデブリを取り出すとしているが不可能だ。計画通り進むこと期待できず、労働者を危険に晒すだけだ。
現在の廃炉ロードマップを放棄し、数百年にわたって管理する体制に根本的に転換せよ。
2.労働者の安全管理を徹底し、十分な人員配置とゆとりのある作業工程を確保せよ!
2014年から15年、死亡事故を含む重大労災事故が頻発した。東電は、安全より工程優先であったことを認め、改善策を発表した。その直後は労災事故が減少したが、再び上昇している。
14年当時、違法な長時間労働や、汚染水タンクの上と下での同時作業など、安全をないがしろにしていた。最近も、以前は禁止されていた一人作業が黙認されている。
安全を最優先としたゆとりのある作業工程、労働者の配置はもとより、元請および東電社員などの安全担当者、労働基準監督官らの十分な配置により、危険作業をなくし働きやすい労働環境を確保せよ。
3.労働者の健康管理に責任を持ち、放射線被害の可能性がある全ての労働者に補償を行え!
低線量被ばくについて、その下限のしきい値はなく、わずかな被ばくでも被害の確率が上昇するという考え方がとられている。
したがって、被ばく労働を経験した全ての労働者に対して、生涯に渡る健康管理は、東電や元請業者、雇用主任せにせず、国が責任を持って一元的に行うべきだ。無料の健康診断を、希望する全ての労働者に対して行い、必要な労働者に漏れなく治療を行うとともに、診断結果を集約して現場の安全管理を見直せ。また、14業務の放射線業務を加え、全ての被ばく労働従事者に健康管理手帳を発行せよ。
放射線被ばくの影響が否定できない疾病やがんの発症に対して、国は全て労災として認定し、東電は損害賠償を行え。収束作業で白血病を発症し労災認定されたあらかぶさんに対して、東電・九電は原賠法に基づく損害賠償を行え。
4.重層下請構造を撤廃し、全ての労働者の雇用と労働条件について、国・東電が責任を持て!
原発は、下請労働者の使い捨てにより維持されている。雇用の不安定性、賃金のピンハネ、労災隠し、杜撰な被ばく管理など、どれも重層下請が生み出すものである。
収束・廃炉作業は極めて重要な国家事業であり、既に東電は事実上国の管理下にある。全ての労働者の健康と安全を保障する観点からも、収束・廃炉作業に従事する労働者の労働条件について国・東電が責任を持て。
5.除染作業や特定線量下業務*に従事する労働者の労働条件を改善せよ!
除染労働者も、重層下請構造の下で、収束・廃炉作業と同様の理不尽な労働環境に置かれている。福島労働局の監督指導を受けた除染関連業者の60%以上に何らかの法令違反があった。
特に、除染労働者の賃金は多くの場合に最低賃金に設定され、国が出す特殊勤務手当(危険手当)を併せて、ようやく一般的な土建労働者と同水準になっている。除染労働は作業そのものが過酷で、特殊勤務手当は被ばくの危険性に対する手当だ。だから現在の賃金水準は、元請・上位業者の中抜きを是認するに等しい。また、除染における不適切な賃金のあり方が、中間貯蔵施設関連事業や、帰還困難区域での家屋解体事業の労働者の待遇に反映している。
国は、労働条件を元請・業者に任せず、賃金の改善と働きやすい環境を保障せよ。
6.東電は下請け労働者が加入した労働組合との団体交渉に応じよ!
東電が事故を起こしそのために被ばく労働が生じているのに、東電は、廃炉作業等の発注者に過ぎないという態度で、下請労働者が加入する労働組合の団体交渉要求を拒否し続けている。廃炉作業で白血病になったあらかぶさんに対して、お見舞いの言葉一つない。やむなくあらかぶさんは、民事損害賠償請求訴訟を東京地裁に提訴し、団交拒否された原発関連労働者ユニオンは、不当労働行為救済申し立てを東京都労働委員会に申し立て、いずれも係争中である。
東電は下請労働者が加入する労働組合との団体交渉に応じ、問題解決を図れ。