四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを命じた昨年1月の広島高裁の仮処分決定に、四電側が申し立てた異議審で広島高裁(横溝邦彦裁判長)は、仮処分決定を取り消し、運転を認める不当決定を下した(3月18日)。

 正門前に「瀬戸内海は見棄てられた」「不当決定」「福島をお忘れか」と書かれた3本の旗。弁護団共同代表の中村覚(さとる)弁護士は、「四電の主張をうのみに、危険性の立証責任は住民側が負うとした前代未聞の不当な決定。裁判所の職務放棄だ」と怒りを表わした。

 報告会・記者会見で中村弁護士は「原発裁判史上初の最悪の決定、到底容認できない」と発言、「最大の問題点は、科学の不定性が存在する場合に、裁判所が専門的知見を有していない等の理由で、住人側に人格権侵害の具体的危険の立証責任を負わせていることだ。これは事前差止めの道を閉ざしたに等しい。司法判断として常軌を逸した考え難い決定」とする弁護団声明を読み上げた。

 伊方原発まで約4キロの山口県上関町祝島に住む仮処分債権者、橋本久雄さんは「ショックで言葉も出ない。福島の大事故を裁判官は忘れたのか」と話した。債権者らは、「瀬戸内海で暮らす者は、伊方原発が事故を起こせば、遮るものは何もない。海から放射能に直撃される」と訴えた。

 記者からの「東海と伊方で同時に、異なる裁判所で全く正反対の決定が出た。どうして判断が異なるのか」という質問に弁護団は「裁判所にしっかりした基準がないまま、裁判官個人の見解で判決を出すからだ」と答えた。

▽追い詰められる国

 広島高裁の敗訴は、国や四電側の窮地を救うためには、裁判所が、危険性の証明責任は債権者側にあるという論理に頼らざる得ないことを示した。これは原発裁判の歴史のなかでも最悪である。

 追い詰められているのは反原発運動の側ではない。国・電力会社側である。今回の不当決定の破綻を暴き、敗北主義に陥ることなく、伊方包囲網をさらに強化していかなければならない。

(江田宏)