1月8日、韓国ソウル中央地裁は、日本政府に日本軍「慰安婦」被害者への損害賠償の支払いを命じる判決を出した(以下、1・8判決)。「国家は他国の訴訟で裁かれない」という日本側の「主権免除」(注)の主張に対し、判決は、「他国の個人への重大な人権侵害の場合は『例外』にあたる」とした。日本政府は期限までに控訴せず、判決は確定した。にもかかわらず、その結果に対して「国際法上、常軌を逸したもの」と激しく反発した。それにマスメディアも、野党も共産党を除いては同調した。
そうしたなか、2月15日、突然、滋賀県議会で「(1・8判決を)非難する決議」が提案された。提案説明もなく、共産党の県議ひとりが反対意見を述べただけで即日で採択された。その内容は、「『慰安婦』問題は日韓条約、日韓合意で解決済み。韓国が自分の責任で解決せよ。日本政府は対外発信を強め、資産の侵害に備え断固たる措置を求める」というもの。
この「寝耳に水」の事態を知った滋賀の市民らは、県議会への質問状を提出し、県議会前での抗議集会を開いて、全国への発信を開始した。
▽東近江市で再び
そのさなか、同県の東近江市議会で「(1・8判決に対する)断固たる措置を求める意見書」が提案されるという情報が入った。その内容は、「『慰安婦』問題は、戦後になって『従軍慰安婦』という言葉をもとに作り上げられた政治問題」、「一方的にわが国が責任を負わされている」など県議会以上の極右的言辞であふれていた。
すぐさま東近江市民を中心に、議会と議員への働きかけや「採択しないで」の要請書を呼びかけるなど行動を開始。3月21日には「#DontBeSilentと『慰安婦』問題」をテーマとする学習会に70人が参加。
25日の本会議では市民が見守る中、4議員が意見書の誤りをていねいに批判。一方、賛成派の発言はひとりだけ。政府の言い分のくり返しに終始した。市議会への要請は短期間のうちに全国から44通寄せられた。
▽奮闘する市民たち
結果は賛成16、反対7、棄権1で採択されてしまったが、県議会では賛成した会派も反対に転じるなど県民・市民の取り組みが成果をあげた。
中心で奮闘したKさんは、「慰安婦」問題の取り組みの遅れによって採択を許した事実を重く受けとめ、「これを契機に、学びつつ取り組みを強める」と決意を語った。
滋賀県下の一連の動きの背景には、「河野談話」を否定して、この日本軍「慰安婦」問題を抹殺したいという歴史修正主義者執拗な願望と焦りが垣間見える。
4月21日には第2次訴訟の判決が出る。1・8判決の原告のひとり李玉善(イオクソン)ハルモニは判決後、「お金じゃない、日本政府の心からの謝罪を待っている」と語った。今年は、1991年8月、金学順(キムハクスン)さんの名乗りでから30年、12月はソウル日本大使館前に「平和の碑(少女像)」が建てられてから10年である。今年が、真の解決に向けて画期となる年になるようともに手を携えよう。
(水島 良)
(注)主権免除論は19世紀初めに国際慣習法となったが、1980年代に重大な人権侵害は例外とすべきと主張され、00年の女性国際戦犯法廷以降、国際法は戦時性暴力を最も深刻な国際犯罪として国家責任を認めてきた。