トリチウムとは水素の同位体である三重水素。化学的性質は水素と同じ。ただ水素が安定元素であるのにたいして、トリチウムは、余計な中性子を含み不安定なため、崩壊してヘリウムに変化することで安定化する。この崩壊の際にベータ線をだす。トリチウムの半減期は12・3年。
▼内部被ばく
トリチウムは化学的性質が水素と同じで、通常の水と区別がない。だから、通常の水と同様にトリチウム水も体内に入り、細胞などを構成する水素と置き換わり、酸素や炭素、窒素、リンと結合し、通常の水素と同じ振る舞いをする。
第一の問題は、こうして体内に取り込まれたトリチウムが容易に代謝されず、その分子が分解されて水になるまで長時間(15年以上という研究も)留まり、ベータ線を出し続けることだ。
トリチウムの出すベータ線はエネルギーが極めて小さく、外部被ばくはほとんど問題にならないが、体内ではミクロン単位の至近距離からの照射が内部被ばくを引きおこす。
▼DNA破壊
問題はそれだけではない。体内に取り込まれたトリチウムは、DNAを構成する元素とも結合するが、そのトリチウムが崩壊してヘリウムに変わると、DNAの構成元素とトリチウムとの化学結合を切断してしまう。なぜなら、ヘリウムはもっとも安定な元素で他の元素とは結合できないから。
つまり、トリチウムは、ベータ線による内部被ばくだけでなく、それとは次元を異にする構成元素の崩壊によるDNA破壊をもたらす。照射被ばくは確率論的現象だが、構成元素崩壊によるDNA破壊は、トリチウムの崩壊によって必ず起こる現象である。
染色体の切断によって生じる致死的なガンや子宮内胎児への影響などについて、核実験が始まる1950年代以降、数多くの研究報告が存在する。
核推進の立場のICRP(国際放射性防護委員会)は、このようなトリチウムの毒性を過小評価し、それが政府や主要メディアの議論の基準になっている。
【参考】河田昌東(NPO法人チェルノブイリ救援・理事)「福島原発のトリチウム—何が問題か」21年4月13日