欧米と日本の労働組合運動の歴史が、産業別労働組合(「本当の労働組合」)と企業内労働組合、労働者間の競争の規制を軸に、わかりやすく展開されている。今の関生大弾圧との闘いに鋭い視座を与えてくれる。

著者の木下さんは、は昭和女子大名誉教授、現代社会論、労働組合・運動にくわしい。興味深く読んだ。

 木下さんは「労働組合の目的から労働組合とは何かと考えてもダメ、労働組合の出現と発展の歴史から考えるべきだ」という。資本・経営者の悪辣な攻撃が労働者の悲惨な状態を生んでいると短絡的に考えるのではなく、敵はむしろ労働者間の競争という労働者内部にこそ根源があると、考え方のひっくり返しを提起している。<競争の規制>にこそ、ユニオニズムの根源の機能があるという。そのための方法として<集合取引(集団交渉)>が必然的となる。

▽企業別と産業別

 アメリカのAFL(職業別組合)とCIO(産業別組合)という「労働組合の南北戦争」の歴史では、激しい闘いを経てこそ自動車産業と鉄鋼産業に産業別労働組合が台頭してくるのであり、単純に産業別組合ができたわけではないことがわかる。ここでは企業横断的産別交渉によって、労働条件を企業外在的なやり方で労働条件を決定することによって、企業同士の競争条件の埒外に置くことになり、それが労働者間競争の規制戦略として究極の到達点となると、産業別労働運動の神髄を鮮やかに示している。

 欧米ではギルド制からの歴史蓄積、職業別組合による徒弟制度によって、技能養成制度が企業によってではなく社会の公的制度につながっていくが、日本では社会的制度ではなく企業が取り込んでしまった。それが大きく企業内組合に収斂されていく。そんな中でも、産別労働組合への努力が必死で模索されていたことを明らかにする。しかし、政党による囲い込み、悪しき引き回し等も原因しながら衰退してしまい、今日のような企業内組合主義にはまった経緯もある。企業内組合では「集合取引」が、年功賃金では「共通規制」ができず、競争と分断の大きな壁にはね返されてしまう。

▽労働運動を考える機会

 関西生コン支部の労働運動が、「集合取引」や「共通規制」を実現する産業別労働組合に挑戦していること、「一般労組」の取り組みを引き継ぐユニオンの試みなどが、職業別・職種別組合への契機を持っていること。木下さんは、これらに新しいユニオニズムの展望があることをきっぱり述べる。組合大弾圧については数行だが、その攻撃の矛先に何があるのか、よくわかる。日本音楽家ユニオン(淡谷のり子さん、雪村いづみさんらも組合員だった)や、プロ野球労組のストライキの話もおもしろい。

 日本では、ともすれば企業内労働組合でダメ、欧米のような企業横断的な産業別組合でなければと教条主義的に考え、そこから脱出できない無力感におちいることがある。この本を読んでいると、日本の歴史のなかにも産業別労働組合への真剣な努力があり、現在もされている事実や、どういう歴史的条件の中で企業内組合の現在に至ったか、その構造的な問題がわかってくる。そのひっくり返しの中に、ユニオニズムへの展望が大きくつかめそうな気がする。いい本に巡りあえた。労働運動についてともに考える機会にしたい。(多田)