組織維持より社会正義

 日米の労働運動の比較を専門とする研究者・伊藤大一さんの「アメリカ社会運動ユニオニズムに学ぶ」と題する学習講演がおこなわれた〔4月13日 関西「業種別職種別ユニオン運動」連絡会主催〕。アメリカ労働運動史の攻防を振り返りつつ、現状の厳しさを見据えながら、それを食い破りつつある社会運動ユニオニズムの現場の息吹が報告された。その要旨を2回に分けて紹介する。また、合わせて、元国鉄労働者の高崎庄二さんに、講演を受けての日本労働運動の課題にかんする問題提起を寄せてもらった。 

▼組織率11%

 アメリカの労働運動の長期衰退傾向は変わっていない。労働組合組織率は11%、民間部門に限れば6%。日本が17・4%(2015年)だから、日本より低い。

 なぜ厳しいのかと言えば、一つは、ビジネス・ユニオニズムという問題がある。要するに、正社員主義の組合。悪くなると腐敗組合。驚くかもしれないが、ラスベガスのカジノを作ったのはチームスターズ・ユニオン(1903年発足。運輸・商業部門などを組織する大労組)。チームスターズの融資でカジノホテルが建てられ、マフィアとも関係していた。だからそういう労働組合への不信感はぬぐえない。もっともチームスターズはその後大きく改革されるけれど。

 もう一つは、アメリカの労働法の問題がある。組合を作ること自体が非常に困難。「労働権」と言って、共和党の強い州では、エージェンシー・フィー(組合費。アメリカでは非組合員も組合費が徴収される)の支払いを拒否できる。また、例えば、アマゾンで組合を作ろうとしたら、会社側は、「組合が来たら酷いことになる。給料の70%を持っていかれる」と悪宣伝するとか、日本だったら不当労働行為になることをやれる。活動家を解雇することもできる。法律上は問題だが、「能力がない」という口実で解雇するということもままある。

▼新潮流

 こういうアメリカ労働運動の現状の中で、新潮流が出てきている。社会運動的労働運動Social Movement Unionism という。特徴は、労働組合の目的を、組織維持ではなく、「社会正義の実現」に置いている点だ。そして、従来は顧みられなかった女性・マイノリティ・低賃金労働者などを組織化の対象にしている。そのために、コアリッションcoalition といって、NGOや地域コミュニティ、宗教コミュニティ、チャイニーズ系コミュニティと連帯する。労働組合だけでは数が少なくて勝てないから、コアリッションしてたたかうということだ。

 主な戦術は、直接行動、distrupt(騒ぎを起こす)戦術、市民的不服従など。マスコミなどの耳目を集めることに力を入れる。そのための訓練もやっている。UCLAレイバーセンター(公立大学に設置されている労働研究教育機関)が、労働組合とタイアップして、例えば、逮捕されるときにどうやって耳目を集めるか、マスコミをどこに配置するか、といったことを非常に実践的にアドバイスしている。

▼労組と地域の連携

 〔動画を示しながら〕これは2018年のシカゴのティーチャーズ・ユニオンのストだ。声を上げている若い人たちは中高校生。中高生が教師といっしょにストをしている。そこにテレビ局が来ている。コールは、「誰のコミュニティ?私たちのコミュニティだ!」。

 大阪では公務員が孤立させられて、いわば市民と維新が結んで公務員を攻撃した。だけどシカゴのティーチャーズ・ユニオンは、教師と地域社会の人たちが手を結んで、市長を追い詰めていった。

 なぜそうできたか?例えば、「予算が削られて校舎にカビが生えている。そういうところで子どもたちが勉強している。何とかしてくれ」と。それを市長にいくら訴えても聞かない。そこで、テレビカメラを連れて現場に行く。夕方のイブニング・ニュースで流される。そうすると市当局が飛んできて予算がつく。

 そういう形で、地域を巻き込んだコアリッションで活動している。

 この日は、各学校で午前中にストで騒ぎを起こして、午後からは中央駅に集まって、シカゴの駅のターミナルを占拠するような形でデモをしている。(つづく)