日本は、以前から在留資格を持たない外国人の長期、無期限の収容が常態化しており、国連や人権団体からも「難民保護の国際的な水準に達していない」と繰り返し批判されてきた。そこへ外国人への人権侵害を強める入管法改悪案を成立させようとしている。
▽「送還忌避者」の排除
改悪案は、「送還忌避に退去強制拒否罪という刑事罰を科す」「難民申請の回数を制限。3回目以降は強制送還を可能する(現行法は、難民認定申請中は送還停止)」「在留資格のない外国人を『監理人』監督下で生活させる監理措置を新設する」としている。過日のBSニュースに出演した下村博文・自民党副幹事長は、「収容者を監督下で出せるようになり、改革だ」とうそぶいた。送還を目的とした改悪だ。
日本で働く外国人労働者は、19年10月で約165万8千人。入管庁は19年12月末の時点で、送還を忌避する被収容者が649人としている。また仮放免という退去強制処分が決まっており、一定の条件・制約をつけ施設の外で生活を認めている「退令仮放免者」が2217人としている。両者をあわせ約3千人を、入管は送還忌避者とする。この送還忌避者を国外に排除しようとするのが、入管法改悪のねらいだ。
日本では、難民など国籍国で迫害される畏れのある人はもちろん、配偶者や子どもなど家族と暮らすには日本にいるしかない人、長期間日本で暮らし日本しか生活基盤がない人、日本で生まれ育った未成年すらも現行の制度と運用のもとでは送還対象になることは少なくない。実際に送還されている。強制送還は、国家が強制力をもって実行する。その行使は当事者を含め、大きな抵抗、あつれきを生じさせる。
▽低すぎる難民認定率
送還する対象でない人々に対し、退去強制処分が濫発される構造的な要因がいくつかある。一つには、難民認定率が諸外国と比べてきわめて低いこと。19年の難民認定数は約1万人の申請に対し44人=認定率0・44%、ドイツの約5万4千人=25・6%や、米国の約4万5千人=29・6%に比べても桁違いである。
退去強制処分が濫発されるもう一つの要因は、日本の外国人労働者政策にある。80年代後半のバブル期以来、日本はニューカマーといわれる外国人を「労働力」として呼び込んできた。日本の若者が「3K=きつい、きたない、危険」と敬遠した中小の製造業や農業を中心に、人手不足の職場を埋めたのは在留資格をもたない非正規滞在外国人だった。それを企業が労働力として活用できたのは、政府の意図的な黙認があったからだ。
衆議院・法務委員会に対し、移住連をはじめとして入管法改悪に反対する市民らが座り込みなどで抗議してきた。改悪案は、入管の権限や裁量を拡大するからだ。
▽収容所での死亡例
3月6日、名古屋入管施設に収容されていた33歳のスリランカ女性、ウィシュマ・サンダマリさんが医療放置され死亡するという重大事件が起きた。野党は、法案審議に入る前に真相究明、ビデオの開示を求めているが、政府は応じていない。
入管施設での死亡事例は、後を絶たない。過去15年間に、少なくとも17人の外国人の死亡が報告されている。収容所での長期収容、入管職員による集団暴行事件もたびたび起こっている。権力の暴走が起きらないように、入管制度のあり方を見直すことこそが課題である。
誰もが尊重され、人間らしく生きられる社会を求める。国籍によって差別されず排除されず、一人ひとりのアイデンティティーが尊重される社会が、当たり前の社会だ。(高野弘治)