私たちの身近な自治体でも、ハンセン病問題に真剣に取り組む姿勢は見られない。私たちは、この問題をともに考える人が一人でも増えることを願ってパネル展、学習会、通信発行等に取り組んだり、行政に要望を届けたりしながら細々と活動を続けている。

▽一瞬、身を引く人たち

 昨年末、A市で差別事象があった。人権団体が市役所でハンセン病のパネル展をしたいと申し入れたところ、職員から「元患者の顔がズラッと並んだら、市民がショックを受けるから駄目だ」という発言があった。当事者団体とともに私たちの会も抗議をし、話し合いを重ねた結果、A市は前向きに取り組む姿勢を示してきたが、差別の本質的な話し合いは今も続行中である。

 ハンセン病に対する差別が続く原因の一つが、らい菌によって顔や手足が変形するという後遺症の問題だ。これまで出会ったことのない姿に出会うと、一瞬身を引く人は多い。正直、私自身も初めて後遺症のきつい人に出会った時は直視できなかった。

 しかし、「療養所での厳しい患者作業で病気が悪化したため」、「投薬治療が遅れたため」後遺症が残ったことを知り、自分の差別心を悔いた。それ以降、退所者の人たちと付き合うたびに、自分の差別心が少しずつではあるが、洗われていくのが嬉しい。

▽自分と向き合う

 ハンセン病問題は、正しい知識を得ることも大切だが、当事者の話を聞き自分の心と向き合うことが大切だと思っている。現在、療養所入所者の平均年齢は86歳を超え、退所者も高齢だ。私たちが直接話を聞ける人も少なくなっている。学習会では、できるだけ元患者や家族など当事者の話を聞く機会を作りたいと考えている。

 私たちは「ハンセン病関西退所者原告団いちょうの会」とかかわりを持たせてもらい、多くを学ばせてもらっている。そこで知り合った人たちの中には、隔離政策により入所を余儀なくされ、家族との関係を断たれ結婚の機会も奪われ、孤独な生涯を送っている人も少なくない。私たちの社会が作り出した取返しのつかない人生被害の数々を直接聞かせてもらう、そんな機会が今は何よりも大切だと思っている。

▽映画『一人になる』

 最後に(上)の末尾に記載した、ぜひ観てほしい映画を紹介したい。

 国を挙げての絶対隔離政策を進める中、終始一貫否定し続けた医師・小笠原登のドキュメンタリー映画が関西で上映される(6月5日〜大阪・シアターセブン、6月15日〜神戸・元町映画館)。

 …小笠原登は「ハンセン病は不治の病ではないし、遺伝でも強烈な伝染病でもない。隔離は必要ない」と言い続け、一人の医師として一人ひとりの患者に接し、患者を「隔離」から守ろうとした。国という「厚く高い壁」の前には、小さな「抵抗」でしかなかったかもしれないが、隔離の中で生きる人々に仄かな灯りをともし続けた…(映画の解説より)。

 医学的真理に従い絶対隔離を批判し続けたが、あまりにも大きな権力の壁に潰され、彼の学説は日本癩学会に抹殺された。足尾鉱毒事件の田中正造を思い起こす。「原子力ムラ」に対する小出裕章氏や、「安保ムラ」「感染症ムラ」に異論を唱え、メディアから封殺されながら行動している人たちとも、重なって見える。

 映画のタイトルは、『一人になる』。そして副題は「群れるな、ひとりになれ みんなになるな、ひとりになれ」。世間の空気に流されそうな今、勇気を与えてくれる言葉です。(おわり)