
前回紹介した政治的プラットフォームすなわち住民の対抗権力を土台にして、ミュニシパリズムは地方政府の首長ないし地方議会議員の議席を得ることで、市民予算や市民条例など住民の直接的な政治参加の領域を拡大し、その権限を拡大することをめざす。
▼資本主義経済への介入
他方で、ミュニシパリズムは地方自治体の権力を利用して、既存の資本主義経済への介入を図る。その際戦略的ターゲットになるのがコモンであり、コモンを奪還し、コモンを拠点にして資本主義経済に対抗することをめざす。だが、ここで注意が必要なのは、これは国家権力による生産手段の所有というかつての社会主義路線の地方自治体版ではないということだ。
この点に関し、「フィアレス・シティー」の第10章「非−国家制度の創出」は次のように述べている。「新自由主義的諸政策が公共財への支出を削減し、利用可能な共有の富の量を減らしたことで、私たちは、コモンズを保護するための別の方法を探さざるをえなくなり、企業をモデルとした都市と対立し、克服することに向かうようになった。この企業をモデルにした都市とは、不平等で、断片化され、市場の論理によって決定されるだけの都市を創り出すような都市モデルのことである。/こうした文脈の中、私たちは、国家あるいは市場の諸力によって運営される世界しか想像することができないという、支配的で二者択一的な思考態度をとることを余儀なくされている。」
こうした思考法に対抗して、「フィアレス・シティー」は、コモンを生産・管理する第三の力が存在することを示す。「公共の富には二つの形態がある。国家的−公共(すなわち国家によって管理されているもの)と非−国家的−公共(すなわち非国家的アクターによって管理されているもの)である。」つまり、ミュニシパリズムは、国家でも市場でもない、非国家的(そしてもちろん非資本主義的でもある)アクターの強化を通じてコモンを生産・管理し(以下簡単に「社会的生産・管理」と呼ぶ)、資本主義と国家に対抗しようとするのである。
▼コモンの生産・管理の主体としてのアソシエーション
本連載の第1回で、コモンは、ある財やサービスを生産・管理する地域住民の関係−相互扶助的で民主的な関係−のもとに置かれて初めてコモンとなると指摘した。コモンの社会的生産・管理というとき、より具体的にどのような関係のもとに置かれることが必要となるのか。
「フィアレス・シティー」第14章「コモンズ」は、コモンの社会的生産・管理について、次のような整理を行っている。「課題は共同体的価値(自律性、使用権、民主的管理・運営)を維持すると同時に公共サービスの諸原則(アクセス可能性、普遍性、透明性、公共的説明責任)を保証することである。再分配とは単に資源を分け合うことではなく、直接的に公共財を管理・運営する権限を人々に与えることなのだ。」
「共同体的価値」として挙げられている指標は、〈コモンの生産、管理、運営に携わる団体が自律的であること(他の支配を受けないこと)〉、〈団体を構成するメンバーのコモンを使用する権利の保証〉、〈メンバーによるコモンの民主的管理・運営〉ということであり、団体の民主的なあり方を規定している。他方「公共サービスの諸原則」として挙げられているものは〈地域の住民が、コモン(あるいはそれを管理運営する団体)に対してアクセスが可能(物理的に)であること〉、〈誰もがメンバーになる権利(それによってコモンを使用する権利)を持つこと(普遍性)〉、〈コモンの運営に関する情報が公開され透明性を保持すること〉、〈公共的に説明責任を負うこと〉ということであり、外部に対して開かれていることを求めているといえる。
こうしたコモンの社会的生産・管理の主体としてすぐに思い浮かぶのは、人びとの自発的な意思による民主的で相互的な組織、アソシエーションであり、その典型的な組織形態である労働者協同組合である。アソシエーションは、共同体的価値を体現する側面が強い。
もう一つの主体として考えられるのは、コモンを管理・運営する地方自治体の機関を住民の参加とコントロールのもとに置くものである。地方自治体の機関による運営は、放っておけば職員(官僚)によって排他的に行なわれるのが通例であろうが、そこに住民参加の仕組みを作り、「社会化」する。こちらは公共サービスの諸原則の側面が強いが、いかに民主化できるかがポイントになる。
ミュニシパリズムは、地方自治体の政治権力を用いることで、住民の下からの経済的イニシアチブ(アソシエーション活動)を促進し、またコモンを管理運営する行政機関への住民参加を拡大することによって、住民の日々の生活に必要なコモンを、住民自身が生産し、管理運営することを可能にする。(つづく)