筆者はコロナ禍のなか「新しい生活様式」「新しい日常」という言葉が、かつての戦時下を彷彿させると言う。1940年、近衛文麿は第二次世界大戦への日本の参画をにらみ、その準備のために大政翼賛会を発足させ、新体制運動を主導させた。それは経済、産業のみならず、教育、文化、そして何より「日常」「生活」に及んだ。

 本書は、かつての戦争体制下、「新しい」という形容詞付きで国策として提唱された「日常」や「生活」の具体的な語られ方を見ていく。そして当時のマスコミや文学者、編集者が、どのような役割を果たしたかも見ていく。吉川英治、花森安治、火野葦平、太宰治、長谷川町子などなど、著名な人たちが名を連ねる。

 4コマ漫画やラジオドラマ、婦人雑誌などで語られる「日常」。そして「隣組」組織。それらによって「内面」から自発的に戦争に参加していく様を知ることができる。「節約」「整理」「収納」「断捨離」「ていねいなくらし」「自粛」というのは、このころ提唱された言葉であることにも驚かされる。

 筆者が言うように、政府が「新しい」という言葉を用いて「生活」や「日常」に介入してくるときは用心すべきだ、と思うとともに、かつての戦争をきちんと総括しえていない日本人は、安易に「戦時下」に引き戻されるのではないか、という危惧をいだいた(民)