6月10日、沖縄県うるま市にある米陸軍貯油施設から消化液2400リットルが流出する事故が発生した。消化液には強い毒性を持つ有機フッ素化合物(PFAS)が含まれていた。沖縄県以外では、こうした重大事故がまったく報道されていない。今回掲載するのは、米の平和団体、ワールド・ビヨンド・ウォーのパット・エルダー氏が6月23日に発表したリポートである。(翻訳/沖縄国際大教授・佐藤学、平和活動家・照屋勝則、名古屋工業大准教授・ジョセフ・エサティエ、構成/本紙編集委員会)
▼世界最大の自然破壊者・米軍
ジョセフ・エサティエ
米軍は、世界で最も多くの化石燃料を消費し、単一の組織としては世界最大の温室効果ガス排出者だ。2000回以上の核実験により多大な住民に癌を引き起こした。湾岸戦争やイラク戦争では、劣化ウラン弾を使用、サダム・フセインに化学兵器を提供した。国防総省が、生物兵器プログラムに資金を提供している疑いさえある。これらは、米軍が世界一の自然破壊者であることの一例に過ぎない。
人類にとって重要なことは、ワシントンの一部のナルシストが東アジアを支配し続けることでも、世界の覇権を握るのがアメリカか中国かでもない。地球の豊かな恵みによって飢えることなく、子々孫々が幸せに生きることの方がずっと重要ではないのか。
ところで、米軍は有機フッ素化合物(PFAS)(注1)という毒性が強く環境に悪影響を及ぼす化学物質を、基地内で消火剤として使用している。周辺の土壌や河川の汚染被害が後を絶たない。基地周辺の住民は、汚染された水で生活している。この危険性に警鐘を乱打するのは誰か。ワールド・ビヨンド・ウォー(注2)のパット・エルダー氏だ。
▼再び沖縄で事故が
パット・エルダー
琉球新報(琉球新報電子版(6月12日)によると事件の概要は以下のとおり。
6月10日、沖縄県うるま市にある米軍の「陸軍貯油施設」で、濃度は不明だがPFASを含む消火用水・約2460リットルが流出した。大雨の影響で基地の外へ流れ出たとみられる。基地の排水路は天願川につながっており、沖縄県が過去に実施した調査では、天願川では、高濃度のPFASが検出されている。「本紙は米軍に詳細を問い合わせているが11日午後10時現在、回答はない」—
「米軍の回答はない」—仮に、米軍が回答したとしても、彼らが何を言うかは想像できる。「沖縄県民の健康と安全を懸念し、安全管理を確保し、再発防止を確実にするように取り組んでいる」と。要するに「堪えてくれ、沖縄」ということだ。
沖縄の人びとは日本政府から「二級国民」扱いされている。米軍基地からの有毒物質の流出が繰り返されても、日本政府は、沖縄の人びとの健康と安全に関して「気にしていない」という態度を繰り返してきた。
沖縄という小さな島は、日本の国土のわずか0・6%を占めるにすぎないのに、そこに米軍専用施設の70%が集中している。沖縄は、ニューヨーク州ロングアイランドのほぼ3分の1の大きさだが、32の米軍施設がある。
▼発がん性の泡
今回は陸軍による流出事件だが、米軍はこのような事件を繰り返して、沖縄の水と魚を汚染してきた。昨年4月には、沖縄の普天間海兵隊基地近くの住宅街に、発がん性のある巨大な泡が落ちてきた。海兵隊員が、基地内でバーベキューを楽しんでいたところ、火災探知機が作動、付近の格納庫からPFOSを含む泡消火剤が放出され、その消火剤の泡が基地外に飛散した。雲のような泡の塊が地上100フィート(約30メートル)の上空を浮遊し、住宅付近に落ちているところを発見された。
沖縄県の玉城デニー知事は、バーベキューが流出の原因であることを知り、「本当に言葉がない」と述べた。ところが、普天間基地のデビッド・スティール司令官の流出事件にたいするコメントは、「雨が降ればおさまる」。司令官は、泡について語るも、泡の有害性について一切触れなかった。なお、同基地では、19年12月にも同様の事件を起こしている。
▼生物濃縮と健康被害
今年1月、沖縄県は、米軍基地周辺で実施したPFAS汚染にかんする水質調査の結果を発表した。それによれば、嘉手納基地周辺の民家地下水から、PFOSとPFOAの合計で3000ナノグラム(1リットル当たり)、また、普天間基地周辺の湧き水で2000ナノグラム(同)を検出(琉球新報電子版1月22日)。
米国の一部の州では、地下水にPFASが20ppt(濃度単位、ナノグラム/リットルと等値)以上を含まれてはならないという規制があるが、これが占領下の沖縄の現実である。
また、普天間基地での泡の流出(昨年4月)に関して、沖縄防衛局の報告書では、「人間にはほとんど影響を及ぼさなかった」というが、しかし、琉球新報の独自調査によれば、普天間基地付近の宇地泊川から、PFOSとPFOAの合計で247・2ナノグラム、牧港漁港の海水から、41・0ナノグラムを検出した(琉球新報電子版20年4月24日)。
PFAS247・2ナノグラムを含有する水とは何を意味するのか?人びとが病気にかかるということだ。米ウィスコンシン州天然資源省は、地表水で2pptを超えるレベルは人間の健康に脅威を与えるとしている。PFASの泡は、水生生物に広く生物濃縮を起こす。その魚などの食べることで人体に摂取される。ウィスコンシン州は最近、トラックス空軍基地の近くの魚のPFAS濃度データを発表したが、沖縄で報告された濃度に非常に近いPFASレベルを示している。
▼在沖米軍の大動脈
うるま市にある陸軍の燃料貯蔵施設は、武器弾薬などを搬入する天願桟橋のすぐ近くにある。在沖米軍艦隊活動司令部によると、「天願桟橋は、兵員にとって、サーフィンや海水浴ができる人気のスポットだ。沖縄・太平洋側の天願湾に面しており、沖縄の中でも、多様な海洋生物が最も集中しているところである」
しかし、米軍は、この自然を賞賛する一方で破壊している。実際、辺野古の新基地建設は、世界でもっとも絶滅が危惧されるサンゴ礁の生態系を脅かしている。そして、基地が完成すれば、再び辺野古に核兵器が保管される可能性がある。
金武湾は、米軍が沖縄で使用するすべての航空機や車両の燃料を搬入・貯蔵・補給するところだ。島の南部にある普天間基地から嘉手納基地を通って金武湾に至る100マイル(約160キロ)の石油パイプラインがある。在沖米軍の大動脈である。
米軍の燃料貯蔵施設が、70年代初頭から、大量PFASを使用していたことが知られている。他方、民間の燃料貯蔵施設では、有害なPFASの使用を大部分停止し、フッ素を含有しない消火剤に切り替えた。
▼差別的な協定の基準
普天間基地の爆音被害とたたかう環境活動家・高橋年男氏の経験は、教訓を提供している。爆音被害の訴えにたいして、裁判所は、「騒音は違法。日本政府にも責任があり、住民に補償すべき」という判決を下したが、「飛行差止」の訴えについては、「日本政府に権限がない」として却下した。現在、3度目の集団訴訟が係争中だ。
高橋氏は、昨年4月の普天間基地の消火剤流出事件の際、日米地位協定を盾に、日本政府も、地方自治体や住民も、流出現場の調査を許されなかって点について、次のように指摘する。「PFAS汚染が、がんを引き起こし、胎児や子どもの発育を害する可能性がある。住民の命を守り、将来世代に責任を果たすためには、原因を調査し、汚染を除去することが不可欠だ。米国内では、PFAS汚染の調査がおこなわれていると聞いている。しかし、海外に駐留する米軍には適用されない。このような二重基準は、ホスト国や米軍の駐留する地域を愚弄する差別的態度であり、容認できない」。
(注1)PFAS 炭素・フッ素結合を持つ化学物質約5000種類の総称。PFOSやPFOAなど。撥水剤・表明処理・消火剤などで普及。発がん性などの毒性があり、しかも分解されにくく蓄積するので「永遠に残る化学物質」と呼ばれる。国際条約でも生産・使用が規制されている。
(注2)「戦争を終わらせ、公正で持続可能な平和を確立するための世界的な非暴力運動」。14年に米で設立、世界20カ国以上で活動する国際組織。