『ホセ・ムヒカ 日本人に伝えたい本当のメッセージ』(朝日新書)に引き込まれています。以前読んだときはその真価をつかめていませんでした。それがいま浸み込むようにじんじん伝わってきます。著者は朝日新聞記者の萩一晶(かずあき)さん。

 ムヒカ氏の初来日の理由は、「日本の今を良く知りたい。結局、皆さんは幸せになれたのですか、と問うてみたい」ということだと著者は言う。「『貧乏でも幸せになれるんだ』といった類の幸福論として誤解される場面も目についた。彼が一番伝えたかった言葉は、ほとんど伝わらなかったように感じる」

 「かつて武器を手に政府軍と闘ったゲリラが、なぜ大統領になれたのか。保守政党が長く権力を握り続けてきた南米のこの国で、人々はどんな思いからムヒカさん達の中道左派連合に政権を託すことにしたのか。ほとんど問われることも、解き明かされることもなく、あまりにも多くのことが、よくわからないままになっており残念」と。

 さらに「ウルグアイでは従来の政治・経済に行き詰まりを感じた多くの国民が、ムヒカさんに新たな可能性を見出したから。新自由主義がもたらした貧困の問題に、正面から取り組む姿勢を示して政権を奪ったのが、中道左派連合『拡大戦線』だった」。「ムヒカ大統領が誕生した背景には、長期にわたる保守政権に対抗しようと、中道左派の数多くの弱小政党が結束を深めていった40年以上の歴史があった。つねに分裂と対立を続けてきた左派系の勢力が一つにまとまり、伝統的な保守政党の力をしのぐのは大変だ。それができたのは、この国に成熟した民主主義があり、粘り強い対話を通じてコンセンサスを築く新しい政治文化が根付いたからだ。時間はかかっても大人の政治家(強調は引用者)が大勢いたからだ。日本の政治家にも学んでほしい、たくさんの教訓がある」

 日本の左派系や与党と野党の現状を見るにつけ、根底的突破口がなかなか開けていないことを痛感しています。ウルグアイと日本の違いはあっても「拡大戦線」に学ぶところは大いにあるのではないでしょうか。レポートは続きます。

(脇田和也)

 ホセ・アルベルト・ムヒカ・コルダーノ:2010年〜15年までウルグアイの第40代大統領)