9月3日、菅首相は自民党総裁選への不出馬を表明し、退陣することを明らかにした。その理由は「総裁選とコロナ対策は両立しないことがわかった」というものだった。この言葉に多くの人びとが怒りを覚えたであろう。事ここに至って、そんなことしか言えないのかと。

 直近の報道各社の世論調査では内閣支持率が軒並み20%台に落ちこんでいた。8月22日投開票の横浜市長選挙では菅首相が全面的にバックアップした小此木八郎元国家公安委員長が、野党推薦の山中竹春氏に大敗を喫した。民衆が菅政権を拒絶していることが露わになっていた。

 特に批判が集中したのは政府のコロナ対策にたいしてであった。感染力の強いデルタ株は3月28日には国内で検出されており、今後その感染拡大が予想されていた。専門家を含めて五輪開催に反対する声が大半を占めていた。ところが政府はその声を無視して、東京五輪の開催を強行した。その結果、感染爆発によって首都圏の医療は崩壊した。8月以降、都内で新型コロナに感染して自宅で死亡したひとは34人、自宅に放置されている人は1万6000人を越えている(9月8日現在)。

 自民党の内部では「このままでは総選挙に勝てない」という危機感が噴出し、一気に菅退陣へと進んだ。総裁選を派手に演出することで巻き返しを図ろうという意図が透けて見える。自民党は1年前に安倍前首相が突然辞任したときもまったく同じことをやった。そこで登場した菅政権がわずか1年で退陣に追い込まれたのだ。その深刻さが政権与党にはまったくわかっていないようだ。

 安倍退陣の理由として、コロナ対策の失敗、経済政策の行き詰まりがあげられた。それ以上に、政権にとって打撃となったのは、森友学園事件をめぐって自殺した近畿財務局職員、赤木俊夫さんの遺族が国などを相手取って1億2000万円の損害賠償を提訴したことだ。

 昨今のマスメディアは、「政府は国民に説明責任を果たすべき」というフレーズを繰り返すことで何かを言ったような気になっているようだが、安倍政権下で起こった森友学園事件、加計学園事件、桜を見る会事件で求められているのは「説明」ではない。真相の究明であり関係者の処罰である。

 安倍政権が実施した金融緩和、財政出動、規制緩和が生み出したのは富の一極集中、格差の拡大、そして身内に便宜供与をはかる「縁故政治」のまん延だった。これを可能にしてきた国会の空洞化、立憲主義の否定、「親方米国」というべき対米追随という負の政治にピリオドを打たなければならない。日本政治は重要な転機を迎えている。

(坂口竜一)