▽ジャパンハンドラー

 小泉政権の目玉政策だった郵政民営化を要求していたのは年次改革要望書で繰り返し「郵政民営化」をとりあげたアメリカ通商代表部だった。その目的は340兆円と言われたゆうちょ・かんぽの資金を米投資銀行が運用し、日本の保険市場に米保険会社が参入することだ。あの時黒字の郵政を民営化する理由は日本国内のどこにも存在しなかった。実際、ゴールドマン・サックスがゆうちょの資金運用を担当するようになったわけだが、「改革」を実行した竹中平蔵は、作業の進捗を閣内で報告するより先に米通商代表部に連絡するという、文字通り米国のエージェントだった(佐々木実『市場と権力』)。

 安倍元首相の場合、首相に再任するや否やすぐ米国に飛んだ。「日本は戻ってきました」と題する報告で、「ハムレさん、アーミテージさん、グリーンさんありがとうございます」とジャパンハンドラーの面々に尻尾を振る演説全文は今も外務省HPで閲読できる。実際、安倍政権の政治プログラムは、特定秘密保護法、集団的自衛権容認など、すべて「アーミテージ報告」の内容そのままだった。

 親米派と非米派の権力闘争の過程で旧大蔵省、外務省、小沢一郎や鈴木宗男、大手銀行員など「アメリカ帝国」の意に沿わない「守旧派」の中から数多くの逮捕者が出た。日本の国家権力は20年前とは本質的に異質なものへと純化しているように思える。

▽日本政治の空疎化

 アメリカ帝国との一体化が進むの過程と並行して、日本の国内政治はとことん空疎化した。現在の自民党中枢は「帝国」こそが自分たちの権力基盤なので、日本国内で説明責任を負う必要はないと思っているように見える。その言葉の空虚さは目を覆わんばかりである。

 例えば2013年の特定秘密保護法や2015年の集団的自衛権容認をめぐる論議はまったく要領を得なかった。当時、米国が具体的に要求していたのは、米本土に向かうミサイル迎撃のために海自のイージス艦隊を第七艦隊とリンクさせろ、そのためにもイージス艦のマニュアルが流出するような機密保持システムを何とかしろ、という二点だった。これ以外に法律がどんなケースに対応すべきなのか、米国の要求が伝わってこない限り外務省にも法務省にもわからないのである。

 そもそも自衛隊は独自の作戦計画を持たず、戦力体系もいびつで、軍隊としては米軍の補助部隊以上でも以下でもない。日本という国自体、「米国追従」以外まともな国家戦略を持たないので、当然ながら日本独自の国防戦略もシミュレーションも存在しない。何も考えていない政府の見解をつきつめると「米国がそうしろと言っているから」という骨しか残らないのである。

▽「こけおどし」

 陸上配備から海上に問題が移行したイージス・システムも、すでに40年前「おとり弾頭を識別することは不可能で、米国のミサイル防衛はこけおどし」とソ連のサハロフ博士が喝破していた。実際米軍はソ連の大陸間弾道弾SS27を迎撃できないし、最近ロシアと中国が配備した極超音速ミサイルは不規則に弾道を変えるためイージス・システムでは対応できない。

 朝鮮民主主義人民共和国も不規則軌道ミサイルを開発中なので、その配備は時間の問題である。使い物にならない「ミサイル防御システム」を1兆円で売りつけるトランプ政権と、唯々諾々とムダな兵器を買い付ける安倍政権。両者の姿は、いじめっこの親分と大金を貢いでゴマをする腰巾着にしか見えなかったが、おそらくいちばんそう感じていたのは状況を熟知する自衛隊だったはずである。だいたい自衛隊の防御陣地を敷いてもいない丸裸の原発を次々と再稼働させる日本政府は「北朝鮮の脅威」など念頭にない。そんな脅威は存在しておらず、軍産複合体が煽る茶番劇につきあって多額の金を上納しているだけなのである。

(つづく)