
シリア内戦下の都市アレッポ。2011年、チュニジア・ジャスミン革命から始まった「アラブの春」が、シリアに波及。民主化求める反政府デモを、ジャーナリストを目指す女学生ワアド・アルカティーブはスマートフォンで撮影を始める。そして自由を求めるたたかいに身を投じた医師・ハムドと結婚。娘のサマ(「空」の意)を出産した。サマを中心に、最後に「砦の病院」を撤収するまでを描いたドキュメンタリー映画である。
デモの高揚に沸き立つ市民。爆撃による重症者が次から次と運ばれる野戦病院。弟の亡骸を抱きしめる小さな兄。娘の死体を揺さぶる父と母。爆撃音と共に生まれたサマが、爆撃音に驚かず見せる笑顔。いつもユーモアたっぷりに笑顔を振りまく友人の母親。アサドとアサドを支援するロシア軍の容赦ない空爆のもと、抵抗する仲間の命を助け共に生き抜く共同体を守る医師たち。方針を必死に議論し、てきぱき実践する仲間たち。その勇敢さ、仲間を思いやり助け合う共同体の姿は、見る者の胸を打つ。
政権の暴虐を告発し、仲間のどん底と希望を、そして廃墟を、よくも命がけで映し出したと思う。撮影時の独白は、戦時に生きる意味を克明に紡いでいる。その中心にサマがいる。
シリアは古代から交通・通商の要衝として栄えた、人類文化の繁栄の地でもある。そのアレッポが瓦礫の街となってドローンから空撮される様は、何とも言えない。
人口2250万人のうち1300万人が難民となり、国外難民は670万人と世界最大の難民を生み、ヨーロッパ中で大きな社会問題を引き起こす。しかし、その実体や、その原因・背景、難民一人ひとりの境遇に光をあてる報道はほとんどない。
私たちの知らないシリア内戦下で苦闘するシリアの人々の姿に触れ、考えさせられる絶好の映画かと思う。(DVDレンタル可)(村)