去る9月26日、ドイツでは総選挙がおこなわれた。長年首相についていたメルケル首相の引退が決定している中、次の時代のドイツ政治をうらなうものであった。結果はこれまで第一党であったキリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)が、大敗して24・1%の得票で第二党に転落。社会民主党(SPD)が25・7%を獲得し、僅差で第一党に。緑の党が14・8%、自由民主党が11・5%と得票率を伸ばしたが、ドイツのための選択肢(AfD)が10・3%、左翼党が4・9%と後退した。

 この選挙結果についてドイツ現代政治が専門の木戸衛一さん(大阪大学教授)が、10月9日、京都市内で講演をおこなった。木戸さんは今世紀初頭からドイツ左翼の歴史を解説。とりわけ興味深かったのは、今回の選挙で約5%の得票を得、小選挙区で議席を獲得した左翼党の歴史だ。ドイツ民主共和国(東ドイツ)の支配政党だった社会主義統一党がドイツの統一の中で、民主的社会主義党(PDS)と改名。さらに旧西ドイツのオルタナティブ左翼と合流し、現在は左翼党(DIE LINKE)となったのである。

▽「言葉」の大切さ

 また2005年から16年間にわたってドイツの首相の地位にあったメルケルを評して、政治における「言葉」の大切さが強調された。メルケルには、政治家としての「言葉」が感じられたという。

 当初、社会民主党は、緑の党にも世論調査で支持率が下回るような状況であったが、CDU/CSUの首相候補ラシェットや緑の党の首相候補ペアボックの失態などが影響し、徐々に政党支持率を上昇させ、今回の総選挙でかろうじて第一党になったという。

 特徴的なのは、旧東ドイツ地域では、極右のAfDへの支持が高く、旧西ドイツ地域では、左翼党が泡沫政党になっているということだった。なお若者の中では、環境問題などに敏感なグループは緑の党が第一支持政党、新自由主義になびいている層は自由民主党が第一支持政党となっている。

 今回のSPDの支持率の上昇の要因として、SPDの党青年部委員長であり党副代表のケヴィン・キュナート(31歳)の存在をあげた。彼が発信する若い世代の率直な政治的メッセージが勢いをつくりだしていたという。非常に興味深い指摘である。

 今後しばらくは、ドイツの政党間で連立政権交渉が続けられる

▽近代史の捉え返し

 さて問題は日本である。

 日本でも10月末には総選挙が行われる。ドイツの政治状況から何を学ぶことができるのか。質疑もその点に集中した。

 木戸さんが強調したのは、日本の近代史150年のとらえかえしが必要だというもの。明治以来、日本独自の外交政策があったのかは疑問であると。明治維新期以降、日本の外交政策は、イギリスの東アジア外交政策の掌中にあり、日清・日露の東アジアでの戦争に突き進んだ。1930年代にナチス・ドイツの勢いが強くなると、それに乗り換え、対米開戦に行き着く。そして戦争に敗北すると、70年余の対米従属の外交政策となっている。

 しかもその根幹には近代天皇制が存在している。この重要な点が、人びとの中で議論されていない。それで、どうやって政治をとりもどせるのかと。核心をついた議論だった。

(秋田 勝)