▽臓器移植

 臓器移植も生命操作のひとつだ。脳死者から臓器をとり出す。脳死という言葉は死んでない人を死んだと思わせる造語だ。移植を受ける者は他人の「死」を待つ。これが医療か? 脳死と判定された人が生き返った事例は幾多も報告されている。移植手術には多額の保険料と多くの専門職が投入される。

 多くの反対を押しきり1997年に臓器移植法が施行された。が、一向に進まないので2010年に法律を改悪した。本人の意志によらず家族の承諾のみでOK、子どももOKとなる。10年までに608件実施されたが8割近くが家族承諾で、6歳未満が17件だった。臓器提供を望まない大人は、健康保険証の裏面にそれを明記しないといけない。

 さらに恐るべきは、新たな臓器づくりが活発化していることだ。様々なバイオテクノロジーの応用が進み、それらを組合せることで可能となった。ES細胞やiPS細胞を使った細胞操作、ゲノム編集技術を使った遺伝子操作などがそれだ。さらには合成生物学が登場し、合成生命の誕生をめざしている。

▽遺伝子の人口合成

 人間の全遺伝子を解読したJ・クレイグ・ベンダー(米)は生命づくりに取りくみ、2015年にその端緒になるものをつくった。人間の全遺伝子を人工合成しようというプロジェクトも始動している。

 こうして臓器移植の世界も変わりつつある。使われるのが他人の臓器、自分の臓器、機械に加えて、動物、あるいは動物と人間の臓器をあわせたものが登場。さらに人工臓器へ進み、移植が「簡便」でコストダウンとなれば、移植を求める人は増えるだろう。これらとリンクして優生学的世界が新たなレベルでつくられていっているのだ。生命とは何かという根本が問われている(臓器移植法を問い直す市民ネットワーク主催2019年11月10日天笠啓祐さん講演録参照)。

▽自然の力は人間を凌駕

 連載を終えるにあたり2人のことばを紹介したい。2015年、大村智氏は「寄生虫による治療薬発見」でノーベル医学生理学賞を受賞した。受賞後、「土の中の微生物はすごい。ノーベル賞の本当の功績者は土」という主旨のことを語られている。

 米の遺伝子を解読した村上和雄氏(分子生物学者)はこう述べている。「遺伝子の信じられない精緻で絶妙な存在や機能を知った。もちろん人間がこしらえたものではない。生命の暗号として無限の遺伝子情報がそこに書きつけたのだと確信した。その偉大な何かを私は『サムシング・グレイト』と名づけた」(要旨)。

 共通するのは、科学の力をはるかに凌駕する自然の力、それにたいする深い感謝と畏敬の念だ。科学万能主義で生命操作につき進む人間社会の傲岸不遜への警鐘乱打ではないだろうか。

 最後に、2年間にわたって読んで下さり、感想を送って下さったみなさまに深く感謝します。

(おわり)