ジョニーデップ主演の映画『MINAMATA』がやっと公開され、観に行くことができました。ハリウッド映画の懐の深さと、発想の豊かさを期待してワクワクしていました。

▽演技がすばらしい

 ジョニーデップの演技もさることながら、日本人俳優の演技が素晴らしいと思いました。アイリーン・スミス役の美波はハリウッドのスター俳優相手に堂々と演じ、國村隼の目と顔の表情だけでも説得力のある渋い演技、「アキ子」さんのお母さん役、岩瀬昌子の静かで抑えた演技などです。役つくりのために岩瀬昌子さんや加瀬亮さんも、水俣現地に足を運んだそうです。

 映画の中で、ユージンと胎児性水俣病患者のシゲルが抱擁するシーン、チッソとの交渉の時に業を煮やしたキヨシが灰皿を割り、自殺をはかるシーン、エンドロールで世界中の環境破壊の様子が映し出されたところなど感動でいっぱいの映画でした。

▽映画評に愕然

 ところが、映画を観終わってから何日か経った後に、映画評論家とか映画通の意見をフェイスブック上で知って愕然となりました。

 その言うところ、�@ハリウッドお決まりの善悪対立で、最後はヒーローの勝利に終わっている。�A話の展開に放火シーンや買収場面などウソが多い。�B映画の最後の場面、母と胎児性水俣病患者の女の子が入浴する場面を使うこと自体おかしい。というものでした。

 こういう評論を読むと、ぼくがこの映画から受けた感銘というのは、中身のない上辺だけのものなのか。水俣病患者や胎児性水俣病の人の苦悩や現実を、全然わかってないということになるのではないかと思われてきました。それで、もう一度映画を観に行きました。やはり、映画自体はそんなに悪いとは思わなかったし、チッソの悪行を世界に知らしめる良い映画だと思いました。

 映画のように、ユージン・スミスの暗室が放火されることはありませんでしたが、事実としては自主交渉派の川本輝夫さんの自宅浴室から不審火が出ましたし、川本さんに現金をチッソが握らせようとしたこともあったようです。まったくの作り話ではないということです。

▽確かに問題もあるが

 問題は「母親と子の入浴」シーンです。映画のクライマックスであり、水俣病患者の悲惨さとお母さんの愛情を写し込んだあの場面です。あの「母親と子の入浴する」写真はユージン・スミスを代表する写真です。写真集『MINAMATA』が発表されてから、各地の水俣展のポスターやチラシに使われました。でも、そのことで「お金が儲かるでしょ」という類の中傷を、当該のご両親がかなり受けられました。「もう、あの子を休ませてあげたい」と思われました。

 それで、あの写真の使用、公開を1998年6月7日以降はしないとアイリーン・スミスさんと、ご両親の間で約束になっていたのです。しかし今回の映画製作にあたり、アイリーンさんからご両親への報告が事後承諾になってしまいました。当然、いまもご両親としては忸怩たる思いをされているに違いありません。

 それに、映画の中のチッソとの自主交渉場面は物足りないです。現実のチッソとの交渉では、水俣病の患者さんたちは映画のセリフ以上の、自己存在をかけた言葉をチッソの島田社長に投げかけています。そういう不十分なところもあるけれど、映画『MINAMATA』を盛り立てて観に行く人が増えるようにしたいです。

▽水俣病を考える契機に

 胎児性水俣病患者さんは、1953年生まれのぼくと同年代の方が多いです。チッソの株主総会が大阪の厚生年金会館で行なわれたのが、ぼくの高校生の時でした。それから50年経ってやっと、ぼくは水俣に行きました。それも、自分から進んで水俣に行こうと思ったわけでなく、ハンセン病問題に取り組んでいる方に誘われて行きました。これまで水俣に二度訪れただけだし、患者さんたちの気持ちに全然寄り添えてないです。   

 堂々巡りに陥りますが、あんな映画「アカン」というのは簡単です。観て、水俣病問題を考えるきっかけになれば。でも、認定されていない人も多くおられます。水俣での先行上映会では1000人くらいの方がご覧になったそうですが、水俣の人たちの受け止め方もそれぞれだろうし、ほんと、答えが出ません。

 映画『MINAMATA』に続いて、もうすぐ原一男監督のドキュメンタリー映画「水俣曼荼羅」が公開されるようです。取材に20年かけ、上映時間が6時間以上の作品だそうです。この映画も、ぜひ観なくては。今から楽しみです。