米中対立が深まる中で、東アジアの平和を守るために必要なことは何か。戦争を回避するために日本はどのような役割を果たすべきか。元内閣府官房副長官補で、国際地政学研究所理事長の柳澤協二さんが、10月23日、大阪市内で講演した。主催はとめよう!戦争への道 めざそう!アジアの平和2021関西のつどい実行委員会。講演要旨をまとめた。

 

▽戦争の危機とは

 米中戦争を回避する条件は3つある。一つ目は米中の軍事バランス。急速な近代化によって中国の軍事力がアメリカを上回っている。海軍艦艇では中国350隻に対し米国290隻、中距離弾道ミサイルは中国1250発、米国はゼロ。

 二つ目は政治的側面。1972年、米中間で、「中国は一つ」「台湾独立を支持しない」という政治的な合意がなされた。ところがトランプ政権以降、台湾の独立志向を背景にアメリカの態度が変化した。一方、台湾の人びとも香港への弾圧を見て一国二制度に不信感を抱き、中国と一緒になろうというモチベーションがなくなっている。中国との統一支持は多くても1割未満。米国の台湾支持が「中国は一つ」という合意をもろくした。

 三つ目は中台間の経済関係の変化。かつては国の主張は違っても経済的には三通(通商・通航・通郵)による相互依存関係で対立を緩和していた。今は高性能半導体の分野で対立が激化している。

 この3つの面から見て戦争が回避される条件が失われている。

 2015年の安保法制で日米は軍事的に一体化した。米軍が動けば自衛隊基地が標的になる。つまり日本が戦場になる。

▽戦争を知らない政治家

 日本の政治家は宮古島にミサイル基地を作れば抑止力になると言う。戦争になればまっさきにそこが狙われることが分かっていない。

 政治家が語るのは敵基地攻撃や電磁パルス攻撃ではない。どうやって戦争を終わらせるのか、どうやったら平和をもたらすのかということだ。

 自民党の選挙公約に「国の使命は国家の名誉を守ること」とある。「名誉」は古代ギリシャの時代から最大の戦争要因だ。それがわかっていない。

 敵基地攻撃とは先制攻撃のことだ。しかし100%は叩けない。残ったミサイルで必ず報復される。戦争には動機がある。動機をなくせばミサイルは来ないのだから、そちらを追及すべきだ。ミサイルは抑止にならない。戦争しなくても核心的利益は脅かされない(安心供与)ということを相手国に信じさせること。これは抑止論の常識である。

 日本は憲法9条に重点を置き、憲法前文の理念に基づいて、外交によって戦争を回避すべきである。中国にもアメリカにも戦争回避を訴え、地球規模の課題で協力し尊敬される大国になるよう説得すべきだ。(池内潤子)