【Ⅳ】本音は「再エネ潰し」「原発死守」

 「エネ基」には、確かに「再生可能エネルギーの主力電源化」「原子力については可能な限り依存度を低減する」という文言があるが、それはやはり「原子力話法」であって、全体の論理構成をつかみ取れば、本音は「再生可能エネルギー潰し」「大手電力会社防衛」「原発死守」である。
 第一に、「S+3Eの大原則」をエネルギー政策の大原則として確認し、それに従えば、「再生可能エネルギーはダメ、原発しかない」という結論になるようになっている。
 第二に、「再生可能エネルギーは主力電源」といいながら、「原発は重要なベースロード電源」と主役にすることによって、前者を脇役に押し戻していることである。
 第三に、「原発は重要なベースロード電源」であり、再生可能エネルギーはあくまでも補助的な電源として「系統制約」をされるものとしていることである。
 第四に、原発と大手電力会社にとって脅威になりつつある再生可能エネルギーを抑え込むために制度を変更し、再生可能エネルギーについて「自由競争」で淘汰し、原発については「国が前面に立って」防衛するとしていることである。
 以上の4点を順に見ていく。

●「S+3E」とベースロード電源

【S+3Eの大原則】

[エネ基 3章]

 エネルギー政策を進める上の大原則としての、安全性(Safety)を前提とした上で、エネルギーの安定供給(Energy Security)を第一とし、経済効率性の向上(Economic Efficiency)による低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に、環境への適合(Environment)を図る、S+3Eの視点の重要性は従来と何ら変わりはないが、例えば、新型コロナウイルス感染症の教訓からエネルギー供給においても、サプライチェーン全体を俯瞰した安定供給の確保の重要性が認識されるといった新たな視点も必要となる。
 こうした新たな視点を加えつつ、S+3Eの大原則を改めて以下のとおり整理する。
(1)あらゆる前提としての安全性の確保
 …
 …原子力はもちろんのことながら、その他のエネルギー源についても、安全性確保への不断の取組が求められる。
(2)エネルギーの安定供給の確保と強靭化
 我が国は四方を海に囲まれ、化石資源に恵まれず、遠浅の海の面積はイギリスの8分の1、森林を除く平地面積はドイツの半分であり、自然エネルギーを活用する条件も諸外国と異なるなど、エネルギー供給の脆弱性を抱えている。資源調達における交渉力の限界等の課題や、資源国やシーレーンにおける情勢変化の影響などを背景として、供給不安に直面するリスクを常に抱えており、エネルギー安全保障の確保は、我が国の大きな課題であり続けている。
 …
 こうした課題を克服し、エネルギーの安定供給(Energy Security)を確保するため、多層的に構成されたエネルギーの供給体制が、平時のみならず、危機時にあっても適切に機能する強靱性(レジリエンス)を高めていくことが重要である。
 また、新たな脱炭素技術分野の重要性が増しつつあることを踏まえ、これまでのエネルギー自給率に加え、トランジションの観点も踏まえながら、サプライチェーン全体での安定供給体制を確保することの重要性が増している。
(3)気候変動や周辺環境との調和など環境適合性の確保
 環境への適合(Environment)については、前述したように、世界的な関心の高まりとともに重要性が急激に増している。
 気候変動問題への取組に当たっては、温室効果ガス排出の8割以上を占めるエネルギー分野の取組が特に重要となる。S+3Eのバランスを取りながら、エネルギーの脱炭素化に取り組むことは国の責務である。
 …エネルギー供給面のみならず、サプライチェーン全体での環境への影響も評価しながら脱炭素化を進めていく観点が重要である。
 …
(4)エネルギー全体の経済効率性の確保
 エネルギーは、産業活動の基盤を支えるものであり、特に、その供給安定性とコストは、事業活動に加えて企業立地などの事業戦略にも大きな影響を与えるものである。
 経済効率性(Economic Efficiency)の向上による低コストでのエネルギー供給を図りつつ、エネルギーの安定供給と環境負荷の低減を実現していくことは、産業界の事業拠点を国内に留め、我が国が更なる経済成長を実現していく上での前提条件となる。
 

【「可能な限り原発依存度を低減」「原発は重要なベースロード電源」】

[エネ基 1章]
 東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した我が国としては…原子力については安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する。

[エネ基 4章]
 …再生可能エネルギーについては、主力電源として最優先の原則の下で最大限の導入に取り組み、水素・CCUSについては、社会実装を進めるとともに、原子力については、国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく。こうした取組など、安価で安定したエネルギー供給によって国際競争力の維持や国民負担の抑制を図りつつ2050年カーボンニュートラルを実現できるよう、あらゆる選択肢を追求する。

[エネ基 4章]
 東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した我が国としては、安全を最優先し、経済的に自立し脱炭素化した再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する。
 現状、実用段階にある脱炭素化の選択肢である原子力に関しては、世界的に見て、一部に脱原発の動きがある一方で、エネルギー情勢の変化に対応して、安全性・経済性・機動性の更なる向上への取組が始まっている。
 
[エネ基 5章]
 再生可能エネルギーは、温室効果ガスを排出しない脱炭素エネルギー源であるとともに、国内で生産可能なことからエネルギー安全保障にも寄与できる有望なエネルギー源である。S+3Eを大前提に、再生可能エネルギーの主力電源化を徹底し、再生可能エネルギーに最優先の原則で取り組み、国民負担の抑制と地域との共生を図りながら最大限の導入を促す。

[エネ基 5章]
 原子力は、燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく、数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる低炭素の準国産エネルギー源として、優れた安定供給性と効率性を有しており、運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源である。

◆「安定供給」「経済効率性」という縛り
 まず、「S+3E」について。
 「S+3E」とは、「安全性Safety」「エネルギーの安定供給Energy Security」「経済効率性の向上Economic Efficiency」「環境への適合Environment」の頭文字。「エネ基」は、「S+3E」が、エネルギー政策の大原則だと強調している。
 お題目を並べているだけと読んではいけない。エネルギー構成は「S+3E」に照らして選択せよ、と厳しく縛りをかけているのだ。
 つまり、「安定供給」「経済効率性」に照らすと、再生可能エネルギーは不安定で非効率だからダメとなる。それにたいして、「原子力は、燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく、数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる低炭素の準国産エネルギー源として、優れた安定供給性と効率性を有しており、運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もない」(エネ基)。だから、原子力が「長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」(同)だとなる。
◆原発が主役、再エネは脇役
 ベースロード電源とは、季節・天候・昼夜、また情勢などにより供給が不安定化せず、一定量の電力を安定的に供給する電源という意味。詳論はしないが、電力は、その需給バランスが重要だとされる。つまり、供給(電気をつくる量)と需要(電気を使う量)とが同じ時に同じ量になっている必要がある。この電力の需給バランスが崩れると、電気の供給に混乱を来たし、最悪、大規模停電を引き起こす(2018年9月北海道胆振東部地震の際の全域ブラックアウト)。だから、電力会社には、電力需給の急変にたいして安定して電力を供給する責任と能力が求められる。
 そこで、ベースロード電源には、この需給バランスを基礎において支えているという位置づけを与えられている。言い換えれば、例えば、季節的要因や経済動向などによって電力需要が減った場合でも、ベースロード電源の出力は一定・不変で維持され、ベースロード電源以外の電源の出力を抑制することで調整される。また、例えば、好天で風力や太陽光などの再生可能エネルギーの供給が増えたとしても、ベースロード電源である原子力は、そもそも出力調整が苦手なので、再生可能エネルギーの方の系統接続を制限することで、需給バランスを維持する。
ここで、「ベースロード電源」とそれ以外の電源の位置づけの違いが歴然とする。つまり、ベースロード電源が絶対的な主役で、それ以外は出力調整される脇役だ。だから、再エネについては、国際動向や世論を鑑みて「主力電源」と名付けてはいるが、実質は脇役でしかないということだ。

●「原発は脱炭素電源」?いや原発は温暖化の原因

【原発は脱炭素電源】

[エネ基 4章]

 (カーボンニュートラルの実現に向けて)電力部門においては、再生可能エネルギーや原子力といった実用段階にある脱炭素電源が存在するため、これらの電源を用いて着実に脱炭素化を実現することが求められる。
 
[エネ基 第5章]
 原子力は…運転時には温室効果ガスの排出もない…
 

 「エネ基」は、「原子力は運転時には温室効果ガスの排出がない」(エネ基)としてなんと原発を「脱炭素電源」に含めている。
 そして、「脱炭素」を錦の御旗に、強引に原発推進に持ち込もうとしている。

◎電気事業連合会・池辺会長(九電社長/10月22日会見)
「カーボンニュートラルを達成するには原子力が絶対必要だ」

 地球温暖化対策として炭素の排出量を減らす必要があり、「原子力は運転時には温室効果ガスの排出がない」から、地球温暖化対策に資するという論法だ。
 まず、ここでは詳論しないが、地球温暖化の原因を炭素にのみ絞り込むのは大いに問題がある。
 その上で、重大なのは、原発が地球温暖化対策に資するというのは、大ウソだということだ。原発は、その稼働の際に膨大な熱を温廃水として排水しているのだ。小出裕章・元京大原子炉実験所助教は、「原発からは温かい大河が流れている」「100万kWの原発は、約1秒間に70tの海水の温度を7℃上昇させる」と指摘する。さらに、放射性物質や化学物質も海に排出している。
 むしろ、原発は地球温暖化の原因の一つなのだ。
 

[小出裕章 「原発から「温かい大河」が」〔要旨・抜粋〕
            /元京都大学原子炉実験所助教 2010年3月26日 IMIDAS]

 原発の稼働に不可欠な冷却水は、?膨大な熱を温廃水として排水するとともに?放射能や?化学物質をともなって海に排出される。
現在稼働している原子力発電の熱効率は0.33、すなわち33%しかない。つまり、利用したエネルギーの2倍となる67%のエネルギーを無駄に捨てる以外にない。
 たとえば、100万kWと呼ばれる原発の場合、約200万kW分のエネルギーを海に捨てることになり、このエネルギーは1秒間に70tの海水の温度を7℃上昇させる。日本には、1秒間に70tの流量を超える川は30筋もない。原子力発電所を作るということは、その敷地に忽然として「温かい大河」を出現させることになる。
 日本には毎年6500億tの雨が降り、雨のうち一部は蒸発し、一部は地下水となるため、日本の河川の総流量は年間約4000億tである。一方、現在[執筆時点]日本には54基、電気出力で約4900万kWの原子力発電所があり、それが流す温廃水の総量は年間1000億tに達する。日本近海の海水温の上昇は世界平均に比べて高く、特に日本海の温度上昇は著しい。原発の温廃水は、日本のすべての川の水の温度を約2℃温かくすることに匹敵し、これで温暖化しなければ、その方がおかしい。そのうえ、温められた海水からは、溶け込んでいた二酸化炭素(CO2)が大量に放出される。もし、二酸化炭素が地球温暖化の原因だとするなら、その効果も無視できない。
◆化学物質、放射性物質も
 温廃水は単に熱いだけではなく、化学物質と放射性物質も混入させられた三位一体の毒物である。
まず、海水を敷地内に引き込む入り口で、生物の幼生を殺すための化学物質が投入される。配管表面にフジツボやイガイなどが張り付くのを防ぐためである。
さらに、汚染した衣服の洗濯廃水などの放射性廃水も加えられる。放射性物質を敷地外に捨てる場合に濃度規制を受けるが、温廃水という毎日数百万tの流量をもつ「大河」があるから、いかなる放射性物質も十分な余裕をもって捨てることができる。苦労して処理するよりは薄めて流すほうが得策である。

●再エネを「系統制約」

【系統を安定的に運用するために】

[エネ基 5章]
 再生可能エネルギーの最大限の導入に向けては、系統制約への対応が不可欠である。…従来の系統の安定性は、同期電源(火力、水力、原子力等)によって維持されてきたが、今後は、系統に占める非同期電源(太陽光・風力・蓄電池等)の割合が高まる中、系統の安定性を引き続き維持するための方策が重要となる。再生可能エネルギーの主力電源化を進める上で、これらの系統制約を解消していく必要がある。
 …
 従来、我が国の電力系統の整備状況は、再生可能エネルギーの立地ポテンシャルを踏まえたものに必ずしもなっておらず、再生可能エネルギーの導入量の増加に伴い、系統制約が顕在化している。
 …
 今後、自然変動電源(太陽光・風力)の導入が拡大することに伴い、出力変動が増大することが予想されるが、系統を安定的に運用するためには、電気の需要と供給を常に一致させるための対応を強化する必要がある。
 

 この10年ほど、再生可能エネルギーがどんどん普及し出力も大きくなっている。しかし、電力会社の原発がベースロード電源として存在し、また、送電線が電力会社によって独占されていることによって、再生可能エネルギーは、電力会社によって系統への接続を制約されるということが続出している。
 原子力をベースロード電源としてベースにするから問題が起こっているのだ。ところが、上の引用のように、「エネ基」は、まさに「原子力がベースロード電源」という考えを墨守して、そのベースの上で、再生可能エネルギーの拡大に伴って、「系統の安定」を維持するかという風に転倒して問題を立てているのだ。

◆フレキシビリティ
 これにたいして、次のような反論もあるだろう。
 「いや、そんな風まかせの再生可能エネルギーを当てにできるわけがない。そんなことをしたら経済が成り立たない」
 そうだろうか。ドイツでは、むしろ、2050年までに、電力需要の8割を太陽光や風力などの再生可能エネルギーで賄うという目標を立て、再生可能エネルギーをベースにして、過不足を、揚水水力、バイオマス、パワー・トゥ・ガス(註6)などをフレキシブルに投入して、出力調整を行っていく考え方で進められているという。フレキシビリティこそが新時代の電力の概念であり、ベースロードは過去の概念になりつつある。(註7)
 また、技術的にも、スマートグリッド(次世代送電網)も実用化され、再生可能エネルギーなどの分散型電源と需給バランスの問題は解決しつつある。スマートグリッドとは、デジタル技術の革新により、電力の流れを供給側・需要側の双方から制御し、最適化できる送電網。もはやベースロード電源が不用になるときがくる。

●「再エネは自立化へ」「原発は国が前面に」

【再エネは「市場競争で自立化へ」】

[エネ基 5章]

我が国の再生可能エネルギーの発電コストは、着実に低減が進んできてはいるものの、国際水準と比較すると依然高い状況にある。また、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、再生可能エネルギー賦課金は2021年度において既に2.7兆円に達すると想定されるなど、今後、国民負担を抑制しつつ導入拡大との両立を図っていく必要がある。このため、再生可能エネルギーのコストを他の電源と比較して競争力ある水準まで低減させ、自立的に導入が進む状態を早期に実現していく。また、再生可能エネルギーの自立化に向けたステップとして、電力市場における需給の状況に応じた行動を再生可能エネルギー発電事業者が自ら取ることを促していくことも重要である。このため、再生可能エネルギーの早期の自立化に向けて、コスト低減や電力市場への統合を積極的に進めていく。
 また、FIT制度の導入を契機とした再生可能エネルギーの急速な導入拡大に伴い、様々な事業者の参入が拡大した結果、景観や環境への影響、将来の廃棄、安全面、防災面等に対する地域の懸念が高まっているという事実もある。
 …
 …再生可能エネルギーの自立化に向けて、FIP制度の導入等を通じて、発電事業者による創意工夫を引き出し、再生可能エネルギーの電力市場への統合を進めることが重要である。

◆再エネが原発の脅威に
 〈再生可能エネルギーのコストは欧州などに比してまだ高い。固定価格買取制度FIT(註8)によって保護・優遇されていることが問題だ〉など、再生可能エネルギーにかんするネガティブな指摘を行っている。しかし、その本旨は、東電福島第一原発事故後、固定価格買取制度FITの導入にも促されて、再生可能エネルギーが大いに普及してきており、いまやそれが、ベースロード電源たる原発を脅かし、ひいては大手電力会社の存立を脅かすものになってきているということを問題にしているのだ。
 そして、電力自由化の流れの中で新規に参入してきた再生可能エネルギー・新電力を、制度的に圧迫するという狙いがあるのだ。経済産業省と大電力会社による“新電力潰し”である。
 それは、すでに、送電線を独占する大手電力会社が、再生可能エネルギー・新電力の接続を制約するとか、新規受け入れを中断するといった形で行われてきただが、それを制度として推進するというのだ。
 一つは、ここで述べられている「FIP(Feed in Premium)制度」が、FIT制度にかわって、2022年から導入されることである。FIT制度は、再生可能エネルギー事業者の〈保護〉に力点があったのにたいして、FIP制度は、同じ買取制度ではあるが、〈電力市場の競争を活性化する〉ということを眼目としている。大手電力会社などとの市場競争の中で「自立化」という名の淘汰が狙われている。
 今一つは、火力のところで言及されている「容量市場」である。日々の電力を売買する「卸電力市場」は既に2005年から開始されているが、それとは別に、2020年から始まっているのが容量市場だ。「容量」とは発電会社の持っている設備能力のことだが、要するに、再生可能エネルギー・新電力に負担をかけて、原発・火力などの老朽化した設備を所有する大手電力会社を支援する補助金制度に他ならない。
 まさに、「脱炭素」「再生可能エネルギー推進」といった触れ込みとは裏腹に、現実の制度設計としては、「再生可能エネルギー潰し」「大電力会社防衛」「原発死守」ということが進められているのだ。

【原発は「国が前面に立って」】

[エネ基 1章]
 福島第一原発の廃炉は、…世界にも前例のない困難な事業である。そのため、事業者任せにするのではなく、国が前面に立ち、…不退転の決意を持って取り組んでいる。

[エネ基 5章]
 高レベル放射性廃棄物については、国が前面に立って最終処分に向けた取組を進める。

[エネ基 5章]
 …原子力に関する丁寧な広聴・広報を進める必要がある。このため、国が前面に立ち、原子力立地地域のみならず、これまで電力供給の恩恵を受けてきた消費地も含め、幅広い層を対象として理解確保に向けた取組を強化していく。
 

 翻って原発への言及を見ると、「国が前面に立って」という文言が繰り返し出てくる。東電福島第一原発事故の処理から廃炉の費用も、被害への賠償や復興の費用も、また、使用済み核燃料の処分や、立地地域自治体への対策や交付金も、国家の丸抱えで行うということである。
 再生可能エネルギーにたいして、「市場競争で自立化へ」としているのと、あまりにも対照的で「エネ基」の本旨がはっきりとわかる。

●原発20~22%

【2030年における電源構成の目標】

※エクセルで表データあり

〔[素案の概要]より作成〕

 上で、「エネ基」の本旨が、「脱炭素」「再生可能エネルギー推進」と触れ込みつつ、それとは裏腹に、「再生可能エネルギー潰し」「大電力会社防衛」「原発死守」が貫かれているということを見てきた。
 だから、ここに掲げられている数字を真に受けて、例えば、「再生可能エネルギー 36~38%」が妥当なのかどうかとか、実現性があるのかないのか、という議論することは、あまり意味はない。
 さらに、原子力が「脱炭素電源」に区分されていることは、「脱炭素とは、原子力推進」「日本の脱炭素は結局、原子力以外にはないのだ」という意志の現れである。
 そして、原発の電源構成比率を「20~22%」と掲げたことは、後述するように、「60年超運転」「リプレイス」「新増設」の道を開くものである。

【Ⅴ】「60年超運転」「新増設」へ
 
●「反省」という枕詞

[エネ基 1章]

 東京電力福島第一原子力発電所事故の経験、反省と教訓を肝に銘じて、エネルギー政策の再出発を図っていくことが今回のエネルギー基本計画の見直しの原点となっている。
 …
 その上で、今後も原子力を活用し続ける上では、「安全神話」に陥って悲惨な事態を防ぐことができなかったという反省を一時たりとも忘れてはならない。
 
 
 殊勝な言葉を並べ、随所でこのフレーズを繰り返しているが、「反省・教訓」を枕詞において、その後で、原子力推進ということを縷々展開するといういわば「原子力話法」であり、根本的に無反省である。実際、「運転時には温室効果ガスを排出しない」として、原発を「脱炭素電源」に分類し、「ベースロード電源」にしっかりと位置づけている。
 

●「世界で最も厳しい基準」という新たな安全神話

[エネ基 5章]
 
 原子力発電所の安全性については、原子力規制委員会の専門的な判断に委ね、原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進める。
 

 今しがた上で「安全神話に陥って悲惨な事態を防げなかったという反省を忘れてはならない」と確認したところだが、その端から、“日本の規制基準は世界一。その基準に適合したら安全。だからどんどん再稼働を進める”と言っている。
 かつて、政府・電力会社は、「放射能を外界と遮断する圧力容器・格納容器などの『5重の壁』による『多重防護』によって原子炉が守られている」と豪語していたが、東電福島第一原発事故において、その「壁」とともに安全神話は崩壊したはずだった。ところが、「世界で最も厳しい水準の規制基準」という新たな安全神話を語り始めている。
 この点について、当の原子力規制委員会の更田委員長も、やんわりと苦言を呈しているので引用しておく。 
 

[更田委員長職員訓示(東京電力・福島第一原子力発電所の事故から10年にあたって)
              /2021年3月11日 原子力規制委員会HP /下線引用者]

 …いわゆる世界最高水準、世界で最も厳しい水準の基準という表現についてお話します。
 いわゆる新規制基準は、様々な自然の脅威に対する備え、多重かつ多様なシビアアクシデント対策、大規模損壊対策など、既設炉に対する規制要求としては確かに世界的に例のないものになっています。しかし、置かれている自然条件の違いがあり、文化の違い、経験の違いなどハード面だけでなくソフト面にも様々な違いがあるなかで、基準や規制の国際比較は非常に難しいことです。
 もとより、継続的な改善を怠ることがあってはならず、“世界で最も厳しい水準の基準をクリア”という台詞が、基準をクリアすれば大丈夫なんだという姿勢を生まないように、新たな安全神話とならないように、私たちは十分に注意をする必要があります。
 

●2030年度「原発20~22%」で「新増設へ」
 たしかに、「エネ基」では、原発の「60年超運転」「リプレイス」「新増設」という文言は明記されていない。これをどう見るかだ。

◆既存原発の現状
 まず、既存の原発の現状の確認から始めよう。


 
【運用中の原発の数】  
福島原発事故前
54基
運転中(運転可能)
33基

【電力会社の新増設計画】
計画中
6基
建設中
3基

【新規制基準の適合・申請の数】
基準適合
17基
審査中
8基
未申請
8基

 現在運用中(運転可能)の原発が33基。
 他方、経済産業省によれば、「2030年原発20~22%」の目標達成には30基程度の稼働が必要と説明している。
 とすると、仮に、既存の原発のすべてが新規制基準に適合したとしても、「原発20~22%」目標の必要数30基をわずかに上回るに過ぎない。さらに建設中の原発3基を加えても36基。
 そして、経済産業省は原発の設備利用率を「80%」と高い数字を見込んでいる(21年7月13日 総合資源エネルギー調査会「基本政策分科会」)が、2019年度の実績は21・4%。
 以上の限りでは、「2030年原発20~22%」はほとんど画餅である。

◆「40年ルール」のハードル
 さらに、「2030年原発20~22%」には大きなハードルがある。

【運転開始から40年超・60年超の原発数】

40年未満
40年超
60年超
2021年
29基
4基

2030年
18基
15基

2050年

18基
15基

 東電福島第一原発事故後の2012年6月、政府は、原子炉等規制法を改訂し、原発の運転期間を原則40年と定めた。例外として原子力規制委員会が審査して認めれば、1回だけ最長で20年延長できる。この「原則40年、最長60年」ルールは、過酷事故に踏まえた規制の根幹といっていい。「40年ルール」導入で多くの原発が廃炉になった。
 この「原則40年ルール」の下で、原発の「新増設」がない場合、2030年には、半分近くの15基が40年超となり、それまでに廃炉の手続きに入っているはずである。さらに、2050年には、運転開始から40年未満の原発はゼロになり、すべて廃炉に入っているはずである。

◆「書いてはないが書き込まれている」
 以上からすれば、「40年ルール」の下で「リプレイス」「新増設」がなければ、「2030年原発20~22%」の実現性はほぼない。
 しかし、この点をもって、「原発20~22%」を「画餅」だと評したり、「原発は早晩消滅する」と楽観視することは間違いだ。
 原発推進の急先鋒である山際議員(岸田内閣で経済再生担当相)によれば、「(40年超・60年超運転について)直接的表現ではないが素案に書き込まれている」(7月28日 電気新聞)と評価している。
 
 

◎[山際大志郎・衆院議員/自民党・総合エネルギー戦略調査会事務局長]
・「原子力はゼロにならないことを今回宣言した」
・「(40年超・60年超の運転について)直接的表現ではないが素案に書き込まれている」
                               (7月28日 電気新聞)

 「書いてないが書き込まれている」とは究極の原子力話法だが、どういうことか。

◆「裏・エネルギー基本計画」
 山際議員がそのようにうそぶくのは次のような裏付があるからでもある。
 「第6次エネルギー基本計画」の策定に先立って、自民党内の「電力安定供給推進議員連盟」(細田会長)が提言をまとめた。

[「電力安定供給推進議員連盟」の提言・要旨抜粋 4月23日]

・安全審査の効率化、審査体制の見直し
・運転期間の複数回延長を可能とする制度見直し
・建設中の原発が可及的速やかに完工し運転が開始できるような政府支援
・原発のリプレース・新増設
・技術の維持発展している新型炉の推進
・核燃サイクルの確立、最終処分の実現などに向けた政府支援
・既設への投資などが適切に回収されるとともに、新規電源に必要な投資が確保される仕組み
・初等中等教育からの安定供給・経済効率性・環境適合・安定供給の重要性の教育

 「提言」には、「運転期間の複数回延長」「リプレイス」「新増設」などの懸案事項がすべて書き込まれている。電力関係者は、「裏・エネルギー基本計画」と呼んでいるという。
 「エネ基」では、政治的判断から「直接的表現」されていないが、本音の計画が「提言」であり、「エネ基」は「提言」とセットで読む必要がある。
 日本の支配層においては、依然として、「原子力死守」であり、「脱炭素」とは「原子力推進」。衆院選後を切り抜ければ、まずは「40年超・60年超運転」、さらに「リプレイス」「新増設」に突き進もうとすることは間違いない。

◆財界の要求も
 [素案]にたいして、直後から、経済界からは早速、強い要求が出されている。

◎経団連
「(原発について)必要な規模を継続的に活用するのであれば、運転期間のさらなる延長や新型炉の研究開発はもとより、リプレース(建て替え)、新増設をエネルギー政策に明確に位置づけるべき」(7月30日)
◎日本商工会議所
「カーボンニュートラル実現には、(原発の)リプレース、新増設が不可欠」(7月30日)

●「破綻」でも核燃料サイクル推進
 「核燃料サイクル政策」は、「使用済み核燃料を繰り返し再利用できる」という触れ込みだったが、その要をなす高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉決定で、「核燃料サイクル政策」はその破綻が明白となった。しかし、なお往生際が悪く、「推進する」としている。

【核燃サイクルに取り組む】

[エネ基 5章]

 使用済燃料の処理・処分に関する課題を解決し、将来世代のリスクや負担を軽減するためにも、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減や、資源の有効利用等に資する核燃料サイクルについて、これまでの経緯等も十分に考慮し、引き続き関係自治体や国際社会の理解を得つつ取り組むこととし、再処理やプルサーマル等を推進する。

●放射性廃棄物のベンチを学校に設置
 使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物の処分問題は全く解決の目処が立たない中で、廃炉時代を迎えて解体された原発から出る放射性廃棄物について、驚くべき方針がだされている。

【海外での委託処理/クリアランス制度】

[エネ基 5章]

(廃炉等に伴って生じる廃棄物の処分については)…国内において適切かつ合理的な方法による処理が困難な大型機器については、海外事業者への委託処理を通じ、輸送も含む運用の実績を積むことが可能となるよう、必要な輸出規制の見直しを進める。また、クリアランス物については、廃止措置の円滑化や資源の有効活用の観点から、更なる再利用先の拡大を推進するとともに、今後のフリーリリースを見据え、クリアランス制度の社会定着に向けた取組を進める。

◆「海外事業者への委託処理」
 廃炉に伴って、原発の大型機器の処分が問題になっている。「低レベル」(註9)とはいえ、放射性廃棄物であり、汚染・被ばくが問題になる。
 国際条約でも、放射性廃棄物の処分は、発生国で行うことが原則。ただし相手国の同意があれば可能になる。日本は、現行、外為法の通達で禁止されている。この規制を外すということが、「エネ基」で打ち出された。
 現在、アメリカやスウェーデンが、放射性廃棄物の受け入れをビジネスと行っている。
 放射性廃棄物の処分という難題の解決に困り、海外に移送して、海外の労働者や住民に汚染・被ばくを押し付ける道を開こうとしている。
 
◆「クリアランス制度とフリーリリース」
 クリアランスとは、放射性廃棄物だが、一定の基準を設けて、それ以下ならば「健康への影響が無視できる」として、「放射性廃棄物ではない」とする仕組み。フリーリリースとは、さらに、放射性廃棄物を、一般の産業廃棄物と同じ扱いにすること。廃炉に伴って発生する放射性廃棄物の処分を容易にする狙いがある。
 既に、放射性廃棄物をクリアランスにより、ベンチやテーブルといったものに再利用することが行われており、電力会社の社内や宣伝施設内に設置されている。それどころか、例えば、福井県内の高校や大学でクリアランスベンチの設置が行われている。
 全国初の設置校である福井南高校HPでは、以下のように紹介されている。

[福井南高校HP  2021年4月22日 下線引用者]

 本校では高レベル放射性廃棄物の処理をめぐる問題を全校挙げて学習しています。今年2月には探究授業「今・未来・デザイン」を実施したほか、この企画に当初から関わっている今泉友里さん(2年)はその後も自主的に自治体や市民活動に携わる方々への取材・探究活動を行っています。これらの新聞記事がきっかけでこの度、日本原子力発電株式会社様よりクリアランス制度を利用したリサイクルベンチの設置依頼をいただきました。
 
 4月21日(水)には日本原子力発電株式会社 立地・地域共生部の中村又司様ら3名が来校。中村様より全校生徒、教職員へクリアランス制度やカーボンニュートラル、エネルギーミックスのあり方について説明をいただきました。この日より新型コロナウイルス感染拡大防止のため3年生は自宅からオンラインで参加、1年生は教室からの配信参加となりましたが、皆メモをとるなど熱心に聞いていました。説明後には、この問題に取り組んでいる今泉さんが日本原電の担当者らへ「ベンチ設置は、原子力にまつわる議論がより身近に感じられ、対話の輪が一層広がるきっかけになると思います」と生徒を代表してお礼を述べました。
 
 このクリアランスベンチは経済産業省や文部科学省、原子力発電所内部や原子力に関わる学術機関を中心に設置されていますが、高校に設置されるのは全国初。日本原子力発電株式会社の担当者は,誰でも触れられるオープンな場所に設置することで今後は広くクリアランス制度について国民に周知、再考してもらうきっかけになればと話していました。
 
  なお、このベンチは1階ロビーへ設置しています。来校の際にはぜひパネルとともにご覧になってください。
 
 
◆「放射性廃棄物との共生・共存」
 「エネ基」でも、「地域との共生」ということが強調されており、その問題については後述するが、これは、原発立地地域の側からの「共生・共存」であり、結局、それは、放射性廃棄物との「共生・共存」という究極まで行きつかざるを得ない。

註6:余剰電力を使って、水を電気分解して水素やメタンなどに変換し、貯蔵・再利用する技術
註7:「連載コラム ドイツエネルギー便り?ベースロード電源が邪魔者になる日」2015年6月18日/8月11日 梶村良太郎(ドイツ再生可能エネルギー・エージェンシー)/自然エネルギー財団HP
註8:固定価格買取制度FITとは、再生可能エネルギーで発電した電気を、一定期間、固定価格で買い取ることを、国が電力会社にたいして義務づけた制度。再生可能エネルギーを普及・促進する目的として2012年に導入。
註9:使用済核燃料の再処理を通して発生する放射性廃棄物は「高レベル」。それ以外、原発の運転に伴って発生する放射性廃棄物はすべて「低レベル」

【Ⅵ】「共生」という支配

 「エネ基」は、表向き「再生可能エネルギー推進」を言いつつ、本音では「原発死守」「電力会社防衛」を至上命題としているという点を以上で見てきた。
 今一つ大きな問題がある。
 「地域との共生」「地元の理解」「エネルギー問題をじぶんごとに」という文言があるが、そこには、一貫した眼差しがある。それは、あくまでも電力会社・大資本がエネルギー事業の主体で、立地地域や利用者は客体だという眼差しである。
 
【Ⅵ-1 再生可能エネルギー 「地域との共生」「地元の理解」】

[エネ基 5章]

 地域と共生する再生可能エネルギーの導入実現のため、事業の開始から終了まで一貫して、適正かつ適切に再生可能エネルギー発電事業の実施が担保され、地域からの信頼を確保することが不可欠である。
 …
 再生可能エネルギー発電事業について地域が情報を把握するための仕組みとして、2016年の再エネ特措法改正に基づき、発電設備の識別番号、認定事業者名、発電設備の出力等の情報については、経済産業省ホームページにおいて公表されている。今後、事業者の適正で地域の理解を得た事業の実施を更なる地域住民に対する情報提供等により促していくため、改正再エネ特措法に基づき、2022年度から、公表情報の拡大を措置する。
 …
 再エネ特措法の施行に当たっては、地域の実情を理解している地方自治体との連携が重要である。そのため、2018年10月に全ての都道府県を集めた地域連絡会等を設置し、現在までに4回開催している。
 

【Ⅵ-2 「40年超の立地地域の将来像」「共創会議」】

[エネ基 5章]

 我が国の原子力利用は、原子力立地地域の関係者の安定供給に対する理解と協力に支えられてきた。今後も原子力利用を進めていくうえで、立地地域との共生に向けた取組が必要不可欠である。
 立地地域は、地域資源の開発・観光客の誘致といった地域振興や、避難道路の整備、防災体制の充実など、独自の様々な課題を抱えている。こうした課題に真摯に向き合い、…解決に向けた取組を進めていく。
 他方で、稼働停止やその長期化、建設停止、再稼働、運転延長、廃炉等の状況変化により、立地地域では経済的・社会的な影響も生じているなど、当該地域の将来へ向けた見通しが立て難くなっている。…産業の複線化や新産業・雇用の創出も含めて、立地地域の「将来像」を共に描き、それぞれの実態に即した支援を進める。
 例えば、40年超となる運転が進む福井県嶺南地域では、将来像の検討・実現に向けた「共創会議」を立ち上げた。同会議では、福井県の「嶺南Eコースト計画」とも連携し、原子力リサイクルビジネスへの支援や、「もんじゅ」サイトで進められる新たな試験研究炉の整備による研究開発・人材育成、関連企業の誘致等も含めて、国が主体的に関係省庁で連携して取組を進めていく。
 

【Ⅵ-3 共創会議「立地地域の将来像」】

[第1回 福井県・原子力発電所の立地地域の将来像に関する共創会議 関連資料
2021年6月資源エネルギー庁]

■「福井県・原子力発電所の立地地域の将来像に関する共創会議」の設置について
1.趣旨
○福井県の原子力発電所立地地域においては、我が国初の40年超となる原子力炉の運転も進みつつある一方で、いまだに再稼働が進まない炉も存在するなど、地域の課題も複雑化している。
〇エネルギーの安定供給を支えてきていただいた立地地域の方々の将来に対する不安を払拭していくためには、これらの炉が運転開始から60年を迎えた後の将来の姿も見据えながら、持続的な地域の発展を実現していくことが求められている。
○このため、立地地域の方々と、国・電力事業者が、目指すべき「地域の将来像」を共に検討・共有するとともに、その実現に向けて、原子力に関する研究開発等の取組や、産業の複線化・新産業の創出など、国・事業者の取組を充実・深化させていく必要がある。
○こうした議論を行う場として、福井県、敦賀市、美浜町、おおい町、高浜町、及びエネルギー・地域政策等に関する有識者にご参加いただき、並びに電力事業者の参画を得て、「福井県・原子力発電所の立地地域の将来像に関する共創会議」を創設する。
2.検討の進め方
○立地地域の各自治体の地域総合戦略等の内容等を踏まえつつ、20~30 年後を見据えた立地地域の産業やくらし等の「将来像」、及びその実現に向けた国・事業者の対応のあり方を、「将来像に関する基本方針」としてとりまとめる。
〇また、必要となる国の施策や、電力事業者の地域共生の取組の内容・実施スケジュール等を「工程表」としてとりまとめる。
○これらの策定後は、毎年、実施状況の把握などのフォローアップを行うほか、必要に応じて「基本方針」「工程表」の改定を行う。
3.会議の運営体制
○資源エネルギー庁 電力・ガス事業部 原子力立地・核燃料サイクル産業課 原子力立地政策室を事務局として、資源エネルギー庁長官及び首席エネルギー・地域政策統括調整官の指導監督の下、ご参加いただく各位のご理解を得つつ、会議を運営するものとする。

■委員名簿
【立地自治体】 福井県知事 杉本達治 敦賀市市長 渕上隆信 
美浜町町長 戸嶋秀樹 おおい町町長 中塚寛 高浜町町長 野瀬豊
【有識者】 福井県経済団体連合会会長 八木誠一郎 京都大学教授 宇根崎博信
マトリックスK代表 近藤寛子
【事業者】 関西電力株式会社社長 森本孝 北陸電力株式会社社長 金井豊 
日本原子力発電株式会社社長 村松衛
【国の機関】 内閣官房内閣審議官 大沢博 文部科学省研究開発局長 生川浩史
資源エネルギー庁長官 保坂伸 近畿経済産業局局長 米村猛

●主体は電力会社・大資本
 上の「エネ基 5章」【Ⅵ-1】の引用では、再生可能エネルギーの立地において、地域とのトラブル・軋轢が発生しており、そのことをめぐって「地域との共生」「地元の理解」ということが言及されている。
 しかし、どうしてそういう問題が発生するのかという深掘りが全くない。そもそも、再生可能エネルギーを推進するのは、端から、地域の外から進出してくる事業者であり、電力会社や大資本であるという前提に立っている。そして、地域の住民は、進出を受ける側であり、事業の客体として扱われ、その事業者が、その住民に「理解」され、「共生」することが課題とされている。
 
◆電力会社による支配構造の護持
 しかし、住民が主体とならないところでは、あえて言えば、原発だろうが、再生可能エネルギーだろうが、その地域に真に根付くことはできない。「エネ基」は、〈住民自身が電力事業の主体になる〉という観点は想定されておらず、〈地域が、必要とするエネルギーは自分たちで賄う〉というエネルギー自治の考え方は否定・排除されている。
 「エネ基」は、電力会社による消費地域の独占と立地地域の支配という構造を護持するという考え方に貫かれている。それは、とりもなおさず、日本という国のかたち、政治・経済・社会の全般にわたる中央集権的な体制という問題そのものである。そして、原発は、そういう電力会社による支配構造、中央集権的な体制を象徴するものだ。
 そして、再生可能エネルギーの導入・推進においても、そういう支配構造・支配体制を変更することは許さない考えである。
 
◆「共生」という強制
 「共生」とは、一般には、〈異種の生物どうしが、相互に作用し合う関係〉〈一方が他方を駆逐することのない共存関係〉という意味だ。
 しかし、電源立地域での事業者と地域との関係は到底、「共生」と言えるものではない。
 「立地地域との共生」が何をもたらし・何を結果したか。
 かつて1950年代、ヒロシマ・ナガサキの被害の深刻さ・残酷さが認識されていく中、また、新たな原水爆実験にたいする抗議が広がる中、他方で、「Atoms For Peace」というアメリカの世界戦略の下で、「原子力は夢のエネルギー」「原子力による最先端科学技術の未来都市」という喧伝がなされた。
 東京などの大都市を中心として高度経済成長を謳歌している中で、それとは対照的に、地方は、むしろ中央による地方の収奪により、ヒト・モノ・カネが吸い上げていく。そういう中央と地方の矛盾を覆うように、地方では、原発の立地をもって地方にも一気に「未来都市」が出現するかのような「夢」が語られた。
 しかし、電力会社という巨大な事業者が、立地地域を選定するや、その巨大事業の物質力に、地域が飲み込まれ、翻弄され、壊され、否応なしに作り替えられていく。また、原発の稼働とともに、放射性物質の環境への排出や被ばく労働の問題も顕在化してくる。しかも、そこで生産される電力は、その地域に資するものではなく、はるかに遠くの・はえるかに大量の消費地・大都市の成長と発展のためのものだった。
 このような問題の顕在化とともに、電源三法交付金が投入される。それによって地方自治体の財政は一時的に潤沢になり、ハコモノが林立するが、やがて、原発マネー抜きには、地域の財政や雇用、政治・経済・社会が成り立たない構造に陥り、地域が丸ごと支配される仕組みができ上がっていく。
 そこでは、地域の真の自立ということを許容されていない。電力会社の意向に反した方向で地域の発展を構想することはできない。ただ、電力会社との「共生」を受け入れている限り、原発マネーが投入されるが、立地そのものを拒否するという選択肢はない。
 だから、「共生」というが、それは「共生」を強制するものだ。
 それは、巨大な物質力をもって、住民一人ひとりに「共生」を迫り、人びとに分断を強いる。ある人びとは、抵抗することは無理と見て長いものに巻かれていく。またある人びとは、そういう地域や人心の変貌を嫌い、地域を後にする。またある人びとは、「共生」に主体的・積極的に乗り、地域の支配層に上昇しようとする。逆にまた、ある人びとは、孤立させられながら、拒否の姿勢を続けるという生き方をする。
 立地地域の風景は、一見すると、青々とした田園と巨大な発電施設とが共存している。
 しかし、そこをもうひとめくりしてみると、選択肢のない「共生」という路線の下で、支配と排除と同質化という殺伐とした風景が広がる。
 これが、例えば、戦後の福島における、水力から原子力に至る、電源開発の歴史と構造であっただろう。そして、その結末が、過酷事故による汚染と破壊、避難と故郷喪失であった。
 
●原子力の後も原子力
◆「共創会議」
 「エネ基」は、具体的な地域に関する言及が少ない中で、福井県における「共創会議」の立ち上げに言及している。【Ⅴ-2,3】
 福井県内では、関西電力美浜3号機などの老朽化が進みながら、国内初の40年超運転に踏み込んでいる。
 「共創会議」は、「立地地域の将来像」について議論する場として、資源エネルギー庁の指導によって立ち上げられ、今年6月21日に第1回の会合が持たれている。(会議の趣旨や委員名簿については、「資源エネルギー庁・関連資料」を参照)
 「共創会議」での議論を見て、改めて、「原子力による最先端科学技術の未来都市」という語り・いや「騙り」は、どうなったのかと問わずにはおれない。この地域では、道路も観光施設のみならず、小型消防車、中学校のパソコンやパブレット、診療所の超音波診断装置、はてはまつりの経費まで原発マネーで賄われている。これはいささかも「最先端の未来」の姿ではなく、むしろ、最低限の社会インフラ、教育や医療・福祉といった事柄が原発マネー抜きには成り立たないという貧困に陥っているということを見せつけているのだ。
 「夢のエネルギー」「最先端の未来都市」の語りとともに40年以上「共生」してきたのに、その結果がこの事態である。
 しかも原発マネーというが、それは、原発が産み出す付加価値でもなく、税金や電力料金から投入されているに過ぎない。ならば、原発マネーとしてではなく、正規の財政として交付されるべきだ。
 そして、いま、原発の老朽化と廃炉という問題に直面して、廃炉とともに地域全体が廃れるという危機が叫ばれている。
 ところが、そのような地域の直面する危機にたいして打ち出されているのは、「原子力リサイクルビジネスへの支援や、『もんじゅ』サイトで進められる新たな試験研究炉の整備による研究開発・人材育成、関連企業の誘致等…」(「エネ基」5章)。どこまで行っても原発から抜け出せない、「原子力の後も原子力」というスパイラルなのだ。そして「背に腹を変えられない」という地域の事情に付け込んで、「40年超・60年超の運転」の道にのめり込んでいる。
 それは、東電福島第一原発事故の轍を踏むものである。
  
●「じぶんごと」の押し付け

【Ⅴ-4 「じぶんごと」】

[エネ基 6章]

…全国各地で丁寧な対話や双方向型のコミュニケーションを深め、それぞれの活動においてエネルギーに関することを「じぶんごと」として捉える機会を構築していく。

[エネ基 7章]

…こうした[2050年カーボンニュートラルの]野心的目標を達成するには、エネルギー事業者だけでなく、全ての企業、国民一人ひとりが脱炭素社会という未来に共鳴・共感し、「じぶんごと」として捉えて行動していくことが大前提となる。

 極めつけは、「2050年カーボンニュートラルへの挑戦を、国民一人一人がじぶんごととしてとらえることが大前提である」「エネ基」という文言だろう。
 なんと手前勝手ないい草だろうか。
 民衆の多数は、「原発はもうやめよう」と考えている。あるいは、電力会社による地域独占や送電線支配に疑問を感じている。しかし、「エネ基」は、そういう問題にまったく踏み込まないどころか、「再生可能エネルギー導入」も、「原発維持」も、電力会社の支配の下で進めるとしている。
 そういう計画を「上から」押しつけながら、「国民一人ひとりがじぶんごととして捉えて行動していく」ことなどできるはずものない。
 「エネ基」は、その内容の仔細の以前に、「上からの計画」という点において、深刻な欠陥・破綻を有している。

【Ⅶ】エネルギー支配からエネルギー自治へ
 
 
 エネルギー問題とは、単にどういうエネルギーを選択するかという問題にとどまらない。エネルギーの生産・供給・配分をめぐる支配という問題が不可分に絡んでいる。そして、中央集権的なエネルギー支配が貫徹している限り、民主主義や自治もないということである。
 そして、だから、エネルギー支配にたいして、エネルギー自治の模索・追求をもってエネルギー支配を掘り崩していくという大きなテーマが存在する。
 「エネルギー自治」とは、電力会社による消費地域の独占と立地地域の支配という構造を護持するという考え方、政治・経済・社会の全般にわたる中央集権的な体制にたいして、〈住民自身が、地域で事業を起こし、地域のエネルギーを賄い、地域経済の循環を促し、のみならず住民自治を再生・構築していく〉という挑戦である。
 すなわち、エネルギーを中央集権型から地域分散型へと転換させつつコミュニティパワーを作り出すことを通して、観客民主主義から主体的参加型の民主主義・ミュニシパリズム(市民主体の政治と地域自治)へ、中央集権・地域収奪型社会から地域分権・ネットワーク型社会への移行を模索するのである。
 それは、次のようにいうこともできる。グローバル化の進展により、中央集権的な資本主義体制の存立そのものが揺らいでいる。それにたいして、グローバル化に掉さしていこうというのではない。しかしまた、腐朽する中央集権的な資本主義体制にしがみつこうというのでもない。いずれでもないオルタナティヴとして、脱・経済成長=脱・資本主義のアソシエーション的な政治・経済・社会を追求するということである。
 それは、夢物語ではなく、ドイツなどでは、再エネを地域住民自身の事業として取り組むことを水路とした社会運動として推し進められていることだ。
 下に掲げる諸富論文[月刊『住民と自治』2018年1月号]が、岡山市真庭市、同粟倉村、長野県飯田市の事例を紹介して、その実践的な教訓を提起している。

【Ⅴ-5 エネルギー自治】

[諸富徹 論文・地域発エネルギー自治の先進性 ??根幹をなす住民自治]・一部抜粋

◆エネルギー自治に基づく地域経済循環
 これら2つの自治体[岡山市真庭市、同粟倉村]が追求する「エネルギー自治に基づく地域経済循環」の中身は概略、以下のようにまとめることができるでしょう。
① 自分たちが消費するエネルギーを、地域資源(ここでは森林)を用いて自ら創り出す。
② 上記目的のために、域外の大企業に頼るのではなく、自治体、もしくは地元企業が中心となって地域でエネルギー事業体を創出。
③ 域外から購入していた化石燃料を、より安価な地域資源(木質バイオマス)に置き換えることで、燃料費を削減、地域の実質所得を上昇させる(「費用削減効果」)。
④ それまでは、「化石燃料費支出」として域外に流出していた所得部分を、地域資源である木質バイオマスへの支出に置き換えることで、所得が地域にとどまるようになる。つまり山林所有者や、エネルギーの生産、流通、消費に関わる地元事業者の利潤、雇用者報酬、自治体への税収の形で、地域の実質所得を上昇させる(「資金還流効果」)。
⑤ 地域資源の活用による燃料生産(まき、チップ、ペレットなど)から、エネルギー(電気・熱)の生産、流通、消費、そして廃棄物(灰)処理のプロセスで、関連産業が地域に発生し、地域に所得と雇用が生みだされる。

◆エネルギー自治
 コミュニティー・ビジネスとしてのエネルギー自治の実践は、①地域経済循環を促すことで、地域の雇用と所得水準を実質的に引き上げ、②とくに人口減少に悩む地域においては、それを反転させる契機となりえます。また、③エネルギー自治の実践を通じて、事業の成功に向けた住民の相互協力が促進され、社会関係資本を蓄積させる効果が期待されます。④事業の実践は、住民自身がリスクを引き受けることと引き換えに、収益を上げる機会を提供し、それを用いてコミュニティーの持続可能な発展を図るための事業に投じることが可能になります。つまり、エネルギー自治の実践の成否は、その地域の住民の自治力に依存しますが、他方でその実践は自治力を鍛えるプロセスともなる点で、きわめて重要です。
 

●「エネ基」は再度の過酷事故を起こす
  改めて、東電福島第一原発事故の突き出した問題を見据える必要がある。
それは、第一に、核エネルギーの「解放」がもたらした災厄の過酷さであり、第二に、ヒロシマ・ナガサキにもかかわらず、核武装を追求してきた問題であり、第三に、経済成長一辺倒で環境を顧みない資本主義のあり方の問題であり、第四に、地方の犠牲で中央の発展を図る、明治以来の中央集権的な国家体制とエネルギー支配の問題である。
こうしてみたとき、「エネ基」は、以上のすべての点において、まったく無反省であり、原発事故を引き起こした根本構造を延命させるものだ。それは、再度の過酷事故を準備するものだと言わざるを得ない。
 だとすれば、「エネ基」にたいするオルタナティヴは、エネルギー支配にたいして、エネルギー自治をつかみ取っていくことである。脱炭素も脱原発も、エネルギー自治がカギなのだ。(了)