
労働組合つぶしを許さない兵庫の会、第2回総会と学習会が開かれた(11月25日、神戸市市内、約120人)。総会は、ひょうごユニオンの岡崎進さんが司会、岩佐卓也さん(神戸大准教授)があいさつ、経過、活動方針案などが武庫川ユニオンから提起された。
学習会は現場からの報告を、小谷野毅さん(全日本建設運輸連帯労働組合)、松村憲一さん(関西地区生コン支部)がおこなった。竹信美恵子さん(ジャーナリスト・和光大学名誉教授)からは、「関生事件が示す近未来労組の可能性」を話した。(取材・文責/高崎)
小谷野毅さん(全日建運輸連帯)
ストライキが組織犯罪になるなら、労働者の権利、労働条件の改善はできない。
なぜ、賃金が上がらないのか。労働組合がストライキを行わない、闘わないからだ。長年、政府、自民党は労働組合を敵視し叩いてきた。
関西生コン支部のストライキに、労使で決着するべきところに、警察権力を介入させ事件をつくり出した。現在、8件の裁判が行われている。去年から今年の夏にかけ、4つ判決が出た。一審では一部無罪になったが、これは武前委員長の「恐喝罪」についてです。もともと恐喝などをしてないのだから無罪は当然です。
他の労働事案に関しては、全部有罪となり、しかもとても重い判決です。判決には、執行猶予がついているが、「労働組合など潰してしまえ」という権力側の意志を感じます。直ちに控訴し、無罪を求めています。
他方で労働委員会では、16件申し立て、10件以上に勝利しています。労働争議として当たり前です、今、中労委に上がっている。中労委で大阪広域協側の弁護士は、「関西生コン支部は反社であり、反社とは反社会的勢力・暴力団である。企業の金をまきあげる特異な反社会的勢力である」「そういう集団であるから企業は怖がり、そこにつけ込み言いなりで労働協約を結んでいる。しかしこれは、強要・脅迫を背景にしているから労働法に値しない」という論陣を張っている。
労働法をとり戻そう
これは長年、権力や経営者が言いたかったこと。労働組合とは何ですか。経営者を震えあがらせてこそ値打ちがあるわけでしょう。そういうなか、この私たちが悪戦苦闘している闘いは、あと数年はかかるのではないか。彼らは、長期にわたり労働組合の力を奪い、活動を自粛させることを狙っている。私たちが、「地労委命令を守れ」「組合潰しやめろ」というビラまき行動、会社への申入れ行動。それに対し、名誉棄損で刑事告訴するということが起こっている。
この弾圧は、ルポライターの鎌田慧さんが言うように、労組壊滅作戦ということが本質だと思います。それを許せば、他の労働組合も委縮していく。私たちは、「関西生コン支部がかわいそうだから助けてほしい」というのじゃない。労働法が踏みにじられている弾圧に、同じ気持ちで一緒になって闘っていこう。労働法を、取り戻そう。全国でつくりだしていこう。
松村憲一さん(関西地区生コン支部)
逮捕に次ぐ逮捕のなか、保釈されたが、付与条件でいまだに「組合事務所に行くことも、仲間に会うことも、組合活動もできない」状況です。厳しくても、多くの仲間と団結していくことが重要だと考えています。これから、もよろしくお願いします。
近未来労組としての関生
竹信美恵子さん(ジャーナリスト・和光大学名誉教授)
今回の関生弾圧を見ると、こういう労働組合を作っていかなくては、この先ずっと賃金は上がらない国になると思います。この弾圧は、単に労働組合だけではなく、消費者運動とか、あらゆる市民運動に関わってくるという「怖さ」もある問題です。
かつてドイツのニーメラー牧師が、ナチスの弾圧が激しくなったときのことを、詩に書いていますね。「ナチスが最初に共産党を弾圧したとき、私は何もしなかった。なぜなら、私は共産主義者でなかったから。ナチスが労働組合を弾圧したとき、何もしなかった。なぜなら、私は労働組合員でなかったから。ナチスがユダヤ人を弾圧したとき、何もしなかった。なぜなら、私はユダヤ人でなかったから。そしてナチスは、私たちを弾圧した。その時、私を助けてくれる人は周りには誰もいなかった」。
今回の弾圧事件を見ると、この詩のことをまざまざと思い出します。
みんなに関係ない?
みんなは、「大阪の事件だ」とか、「生コン関係の事件だ」とか、「関係ないよね」とかいろいろ言うんです。でも、そんな話ではない。見過ごせば、ニーメラー牧師の時と同じように、かならず自分のところに来る。来た時には、「周りには助けてくれる人は誰もいない」ということになりかねない。
その予感、実感するという思いが、私の『賃金破壊』という本を出した背景です。そしてメディアが、まったく音なしであったことがショックでした。私は、後悔しないためにも、この弾圧を取材しようと思いました。
関西生コンは、産業別労働組合で労働者を組織化するとともに、生コン会社の組織化・協同組合をつくってきた。そして、大手セメント会社やゼネコンが、「セメント価格を引き下げよう」とするのを許さず、賃金引き上げ、労働条件の改善をかちとってきた。
なぜ賃金が上がらないか
今、世界の先進国では1990年代半ばから賃金が上昇傾向にあるが、日本はずっと下がってきた。日本だけが賃金が下がっている。企業は、「グローバル化のもと、国際競争力が激しくなるから賃金が下がる」と言ってきたが、そうではない。日本の賃上げ装置に、どこか欠陥がある、そういう賃金破壊ということが分かってきた。
それは労働組合が、力をなくしてきたからだ。しかし、いまだに賃上げ、労働条件の改善をかちとっている労働組合がある。そこに、関生支部に攻撃がかかってきた理由がある。
今回の攻撃は、生コン会社が「大同団結」していくなか、アウト業者が参加し、100%組織していくなか広域協組の中身が変質していった。これまで協力関係にあった関生支部との間もおかしくなっていった。
警察は、一応「法律にもとづいてやってくる」が、憲法28条があり労働3権と労働組合法があるのに、なぜ逮捕できたのか。労働法用語を、刑事事件の用語にすり替えている。例えば団体交渉は、団結という名前を使い「会社に嫌がらせや暴力行為、恐喝をする」と。
「組織犯罪」適用のからくり
「これは、一種の暴力集団、組織犯罪だから労働組合ではない」「だから刑事事件の対象になる」ということが行なわれている。「団体交渉を強要」と言えば、労働法のらち外になる。ストライキも「威力業務妨害」と言えば、逮捕できる。しかし、そもそもストライキは、「威力をもって業務を妨害するもの」です。
「コンプライアンス活動」は恐喝と、刑事用語にすり替えている。その背景にあるのは、「関生支部は自分たちの組合員のいないところに行って行動するから問題だ」とする。組合員がいないところで活動することが問題であるといっているが、法律にはどこにも書いていない。「労働組合は企業内、組合員のいるところで行うもの、いないところで行うのは組織犯罪でしょう」と言っている。
しかし、それは産業別労働組合では当たり前であり、海外ではむしろ主流です。日本では、「労働組合は企業内で行うもの」というようになっている。ある意味、解釈改憲。これは労働組合ではないといって逮捕してもいいというのが今回のやり方です。
憲法28条を解釈改憲
「労働組合法をつぶそう」とか、「憲法28条を改憲しよう」とかいうと、大騒ぎになり、「労働基本法を守れ」という運動が起こってくる。だから、「関生は労働組合ではないから、労働基本権、憲法28条のらち外におけば逮捕してもいい」となってくる。9条の解釈改憲と同じように、28条解釈改憲が行われている。
こんなことが通用すれば、労働組合運動はできなくなる。1980年に武委員長が逮捕されたとき、検事は、(1)下請け・孫請け労働者の雇用責任を、三菱とか住友の親会社にもっていくこと、(2)不当労働行為を解決するにあたり、実損回復のみならず経営者にペナルティ(解決金)を科してきたこと、(3)企業の枠を超えた連帯行動と称し、同情ストライキをかけたり、労組のいないところに動員をかけたりすること、と言っている。
今回の湯川委員長に対し、逮捕—再逮捕という形で長期拘留をおこない、組合つぶしをおこなっている。もう一つびっくりしたことは、国会とか裁判所を使いイメージ操作をしている。19年、足立康史という維新の国会議員が国会で「関生支部のようなところには、破防法を適用してください」と言っている。「これから、万博とかIRがおこなわれるなか、それでいいんですか」と言っている。
それらの事業に、セメントがたくさん使われるということを見越して言っている。裁判では、裁判所は衝立を用意し審理をしている。「関生は怖い集団である」と印象付けようとしている。関生を弾圧することにより、労働運動、野党攻撃に利用している。
戦前に起ったこと
なぜ、こういうことが起こるのか。戦前、日本の労働運動では、企業の別を超えた横断的組織が当然でした。企業別や事業所別組合は「黄色」組織と見ることが常識でした。第1次大戦後、国際連盟に加入の条件に「労働組合を公認すること」とされるという雰囲気。
戦勝国の一員たろうとする日本は、治安警察法第17条、同盟罷業の「誘惑扇動」を禁止の改廃、労組法の制定が課題になった。時の内務大臣は、横断的組合こそが階級闘争の原因となると、横断的組合を敵視しつつ、治安警察法17条の解釈を変更し、横断組合あるいは社会主義者等の外部者がストに関与する場合は17条を適用し、工場内・事業所内の労働者だけによるストには17条を適用しないこととした。
同時に、上から工場委員会制度を導入し、労組を代位させようとした。1926年には、治安警察法17条を削除、その前年に治安維持法が成立している。
戦前に行なわれたことが、いま起こっている。そして戦後の警察官教科書には、「共産党、労組、労組支援団体、右翼、市民運動は監視の対象」になっている。2000年の組織犯罪処罰法、17年テロ等準備罪(共謀罪)、「組織的犯罪集団」ということが言われている。関生事件とは、基本的人権不在の戦前の治安警察法労政=警察政治の現代版である。ニーメラーが詩に述べたように、関生だけの問題ではない。
展望はある 勝利できる
一方、関生事件については、警察担当に労働担当が介入することの難しさというメディア問題もあると思いますが、学者声明とかいろんな形で発信するとか、声を大きくしていくことができる。 私たちが、この事件を公開の場で話題にしていくこと、地域で勉強会を開くなど、安心して話せる場をつくっていくことも大切です。非常に重要な局面にきています。SNSを使った反動的な役割も目立つ。YOUTUBEなどに出し、対抗報道することが必要。
黙って放置すれば、28条の解釈改憲、社会運動全般への弾圧に応用される。しかし、この事件の異様さ共有できれば、歯止めをかけられる。企業内労組だけでは、4割を占める非正規とワーキングプア問題は解決しないことを認識する。なぜなら、企業内労組を追い出されたら、労働3権をバックにして闘うことができないからです。そういう意味で関生は、「近未来労組」です。
これから、控訴審と中労委が始まっています。次の展開に向かっていきましょう。