昨年3月、参議院文教科学委員会で、自民党議員や馬場伸幸議員(日本維新の会)が質問。4月27日、政府が、「従軍慰安婦」「強制連行」という用語を不適切とする見解を閣議決定し、教科書への反映を求めた。この問題をめぐって琉球大学名誉教授の高嶋伸欣さんが、大阪市内で開かれた教科書全国集会で講演した(昨年12月18日)。以下は講演要旨(見出し/文責は本紙編集委員会)。

▽維新とグルで解釈変更

 政府見解を教科書に押しつけるという不当な行為を誘導・推進したのは、萩生田光一文科大臣(当時)と維新の会の幹部議員であった。文科省が所管省としての役割を果たしていない。

 教科書の検定基準には、「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解または最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること」という政府見解条項がある。しかしこの条項では「閣議決定された政府見解以外の説も両論併記で記述すること」を認めている。当初、荻生田大臣はそのことを踏まえて答弁していたが、維新議員の発言に誘導されて答弁を修正。この条項を「政府として認めたものについてのみ教科書には記述する」ことをルール化したものと答弁した。委員会に出席していた文科省の審議官らは、明らかに条項に反する大臣答弁の訂正をしなかった。

 この答弁を受けて、5月18日、文科省は教科書会社の経営幹部を集めて、「訂正申請」を強要した。

▽発行者らの抵抗

 しかし、政府見解の押し付けに「言いなりになるものか」と気概を示した発行者もある。

 清水書院は、「歴史総合」の「いわゆる従軍慰安婦」記述に注記を新設。次のように加筆して承認を獲得した。「従来は政府の談話なども含めてこのように表現されることも多かったが、実態を反映していない用語であるという意見もある。現在日本政府は「慰安婦」という語を用いることが適切であるとしている」

 第一学習社は、「高等学校改訂版世界史A」「高等学校歴史総合」で、朝鮮人労務者の「強制連行」本文記述に注記の記号を付けた。注記に「「強制連行」とするのは不適切とする閣議決定をしたが、実質的には強制連行に当たる事例も多かったとする研究もある」と入れ、教科書への政治的介入の事実を生徒自身が読み取れる内容にした。このような結果を受けて、産経新聞(2021年9月21日付)はトップ記事で、「教科書に「従軍慰安婦」残る 検定限界、引用で通過」と敗北を認めた。

 歴史改ざん勢力が圧力をかけて、教科書から「従軍慰安婦」や「強制連行」をなくそうとしても、過去の日本の侵略戦争の事実を消すことはできない。