本紙関係者と読者の皆さん、これまでコラムを書かせていただき、ありがとうございました。今後は、別の形で感想などを述べられたらと思っています。

 最後にあたって、いま注目すべき県内の石木ダム反対の闘いに再度触れたい。

 長崎県は昨年9月、住民らによる抗議行動によって見送られていたダムの本体工事に着工。これにたいして、反対する住民は「身を削られる思い。本当に悔しか、歯がゆか」「人の住んでいるところを奪ってまで要るようなダムか」と憤る。

 闘いは40年以上も粘り強く継続している。今も水没予定地には13世帯約50人が居住し、コメ作りなどを営んでいる。

 ダム建設の名目は第一に、佐世保市の水の確保だが、実際には水は足りている。佐世保市の人口は減少している。第二に、川棚町の洪水の防止だが、ここ1〜2年の大雨でも洪水は起こっていない。ダムをつくる石木川は川幅2〜6メートルしかない小さな川である。現場を見れば、このような小さな川に洪水対策が必要なのかと、誰もがあきれるほどだ。

 まさに「無駄な公共事業の典型的な例」だ。建設計画は、40年以上前の公共事業全盛期の「昭和の発想」で。今の時代に合っていない。「水の確保」も「洪水の防止」も客観的根拠に乏しい。

 ダム建設よりも漏水対策のほうが必要だ。佐世保市の水道管は老朽化が進んでいて、生活用水が地中に漏れ出しており、年間6億4千万円のお金がムダになっている。

 ダムに反対する住民は工事の差し止めを求めて裁判で争っているが、福岡高裁は「平穏に生きる権利を侵害される恐れはない」と訴えを棄却した。原告は最高裁に上告し、現在係争中だ。

 昨年11月、反対派がおこなった「人間の鎖」と現地集会では230人が抗議の声を上げた。立憲民主党の国会議員の山田勝彦氏と末次清一氏、そして元滋賀県知事で参議院議員の嘉田由紀子氏も参加した。

▼「人新世」に通じる

 川棚・川原地区は自然豊かな里山で、毎年コメ作りも行っている。平和に、平穏に、自然の中で共に生きる権利が奪われてはならない。これは、資本主義と地球との関係の問題に通ずるものだ。

 経済成長による温暖化が地球を壊し、人間自身が生きられなくなる「人新世」に通じる問題である。佐世保市と長崎県は、住民の生きる権利を奪ってはならない。工事をただちにやめよ。

 終わりに、斎藤幸平さんが掘り起こした、マルクス最晩年の理論的大転換=「脱成長コミュニズム」の思想に触れられることをお薦めする。私は斎藤さんが、従来からのマルクス派総体(革共同も)の思想的行き詰まりに突破の道を指し示していると感じている。勇気をもらった。

 (脇田和也 2022年1月7日)

〔この連載は今回で終了します〕