
昨年総選挙で与党は239議席を確保し、改憲勢力は与党・維新・国民など348議席となった。1月、神戸市内で行なわれた勉強会で関西大教授の高作正博さんは、敵基地攻撃能力保有をめざす岸田政権の改憲姿勢を批判した。(取材とまとめ、文責・竹田雅博)
岸田政権の基本政策は、12月臨時国会における岸田総理の所信表明演説にある。キーワードでいうと「新しい資本主義のもとでの成長と分配」が基本方針となる。デジタル田園都市国家構想のもと、地域活性化、マイナンバーカードと健康保険証・運転免許証との一体化、スマートフォンの利便性向上などだ。
外交・安全保障
外交・安全保障問題は「新しい資本主義」の前提という位置づけになる。そこで言われているのがASEANや欧州との連携、日米豪印との「自由で開かれたインド・太平洋」の推進。宇宙、サイバー、ミサイル技術向上、島嶼防衛、敵基地攻撃能力などだ。また辺野古移設推進が唯一の解決策、基地負担軽減とも言っているが本当にそうなのか。
さらに自由・民主・人権・法の支配という価値観に基づく国際秩序が言われるが、日本はどうなのか。自由、民主主義、法の支配が正常に機能しているのかどうかには疑問がある。
積極的に改憲推進
憲法改正についてはけっして「ハト派」ではない。岸田首相は「国会議員には憲法のあり方に真剣に向き合っていく義務がある。まず国会での議論。与野党の枠を超え積極的な議論を期待。さらに国民の理解の深化。現行憲法が今の時代にふさわしいか。国会議員が広く国民議論を喚起していく」(12月臨時国会、所信表明演説)と述べており積極的な改憲推進を表明している。
「憲法に真剣に向き合う義務」と言うならば、これまで自民党政権が数々の憲法違反を行なってきたことに真摯に向き合ってもらいたい。例えば、憲法53条に基づき野党が臨時国会開催を要求したが、開かなかった。憲法に従っていない政党が「憲法を変える」と言うのは納得できない。
現在出されている「改憲案」は2021年の自民党案だ(左囲み)。
9条については自民党内でも一致できなかった。安倍元首相は「自衛隊明記」である。緊急事態条項は、コロナによる緊急事態宣言が繰り返され抵抗感が薄れていく懸念がある。「教育を受ける権利」と「合区問題」は現行の法律で十分対応できる。
自民党改憲4項目
㈰9条(2項削除、2項維持・自衛隊明記など)、㈪緊急事態条項、㈫教育を受ける権利、㈬参院選の合区解消
やはり9条の改悪が狙い
9条と緊急事態条項が大きな問題となる。自民党案は、9条2項「陸海空軍その他の戦力は保持しない。国の交戦権は認めない」(現行)から、「自衛隊を保持する」となっている。そもそも自衛隊を明記する改憲が必要なのか。
歴代の内閣は、それ自身の問題は置くとしても「自衛隊は合憲である」とする見解を一貫して明らかにしてきた。自衛権概念も広汎であり、「自衛の目的であれば敵基地攻撃も、核兵器の保有・使用も合憲、自衛権の範囲内」としている。わざわざ憲法に明記する必要はない。これまで政府は「武力行使を目的に行くのが海外派兵、違憲である」「インド洋やイラクへは武力行使目的ではないから海外派遣であり、憲法違反ではない」と言ってきた。
しかし、15年安保法制により集団的自衛権による武力行使ができるようになった。その自衛隊の明記ということになる。
緊急事態条項の危険
もう一つ、緊急事態条項。大災害への対応が遅れるのは緊急事態条項がないからか。平時から必要な法律を整備すれば十分であり、これも必要性があるのか。緊急事態条項は人権や憲法を含む「法」の停止、権力の集中ができる。治安維持法の改悪は帝国議会でいったん廃案となったが、緊急勅令により大弾圧法になった。議会に諮らず政令で何でもできる。濫用の危険性は大いにある。
自衛権行使の要件は「武力攻撃が行なわれ、始まった」とき。政府見解は、自衛権の範囲内での敵基地攻撃は憲法上可能としている。これは現在も生きている。「わが国に対し誘導弾等による攻撃が行なわれた場合 … 攻撃を防ぐに他に手段がないと認められる限り、基地を叩くのは法理的に自衛の範囲、可能である」(56年2月、衆院内閣委員会答弁)。
前提は、自衛権の範囲内であり従来の政府見解と整合することだ。「他の手段がない場合」について議論されていないのが問題だ。相手国からの攻撃を防ぐための外交努力、相互の軍縮努力、国連等を通じた紛争回避の努力をやったのかなどだ。
抑止力論の矛盾
「抑止力を高めるために、敵基地攻撃能力を上げる」「相手国よりも上回る攻撃能力を持つ」という抑止力論は、結果として軍拡競争を招く。「中国」を上回る抑止力を日本の自衛隊が持つのは、極めて非現実的であり抑止力論そのものに限界がある。これらが国会で議論されるのかどうか、注視したい。