現在ヨーロッパでは原発回帰の動きが進んでいる。欧州連合(EU)は、脱炭素と経済成長の両立を目指す「欧州グリーンディール」を掲げ、温暖化対策に貢献できると認めた持続可能な経済活動のリスト「EUタクソノミー」を設けている。そのリストに原発を加えようというのだ。ドイツやスペイン、オーストリアは反発を強めているが、フランス、ポーランド、チェコの要望は強い。
原発は発電時こそCO2を排出しないが、脱炭素の切り札などではない。ウラン燃料の採掘、精製、加工、輸送でCO2を排出している。日常的に労働者に被ばくを強い、事故が起これば著しく環境を汚染する。
EUタクソノミーの環境分野は6つ。「気候変動の緩和」「気候変動への適応」「水と海洋資源の持続可能な利用と保全」「循環経済への移行」「環境汚染の防止と抑制」「生物多様性と生態系の保全と回復」だ。
原発はこの6つの環境分野のすべてで悪影響を与えている。通常運転で作った熱の70%は海に捨て海水温を上げ、トリチウムを排出している。原発による気候変動や海の生態系に悪影響は明らかだ。ひとたび大事故が起きれば、長期間、広範囲にわたって放射能汚染が続く。生物多様性と生態系の保全に最も向かないエネルギーだ。
次世代の原発として喧伝されているのが「小型モジュール炉(SMR)」だ。ロシア北東のチュコト自治管区ぺベクの港に停泊する全長144メートルの巨大船の中で、小型原発2基(出力計7万キロワット)が稼働中だ。日立製作所と米GEの合弁企業は、カナダのオンタリオ州政府系の電力会社から小型原子炉を受注した。SMRは、各国で開発及び導入検討が積極的に行われている。1月6日には萩生田光一経産相がSMR開発をめぐる国際連携に協力する政府方針を明らかにした。しかし、出力が小さくても原発は原発である。核廃棄物の処理問題や、事故のリスクは解決されていない。原発は人類が制御できる装置ではないのである。   (池内潤子)