
昨年3月6日、名古屋出入国在留管理局の収容場で殺されたスリランカ人女性ウィシュマさん。著者の眞野さんは、ウィシュマさんの仮放免のための身元引受人となるはずだった。死の2カ月半前の20年12月18日、初めて面会した。その4日後にウィシュマさんから届いた1通目から、翌21年2月8日の最後の9通目までの手紙が紹介され、眞野さんとウィシュマさんとの心の交流が生まれていく過程、衰弱してく彼女を救い出すための激烈なたたかいが記録されている。
アクリル板の壁を越えて心をつなげた二人
ウィシュマさんは眞野さんとの出会いに励まされ、懸命に生きようとする。日本へのあこがれと希望が打ち砕かれ、心も体もぼろぼろになったつらさを嘆きならも、自分を「初めて心配してくれた」眞野さんに応え、もう一度夢を持ち直そうとする強い意志が手紙から読み取れる。カラーで掲載されている手紙と美しく、時には細密な彼女の絵を見ると、感性豊かな才能のある女性だったことが伝わってくる。手紙と次の手紙の間の、そしてもう手紙すら書けなくなったウィシュマさんを案じ、入管に日参してたたかう眞野さんの日々、だが…。
ウィシュマさんの無念の死を目の当たりにした眞野さんは、仲間によびかけ、入管への抗議行動に立ち上がる。「流れる涙のままに、大声で」。このときの報道で、多くの人は起きた事態の大きさを知ることになる。
まだ終わっていない
ウィシュマさんの死は、人々を「無関心」から覚醒させ、全国各地で抗議と入管体制への批判的世論も醸成された。それはその春、政府与党が狙っていた入管法改悪を阻止する力となっていった。
しかし未だ、ウィシュマさんの死の真相も明かされず、ましてや責任者の処罰もない。入管での人権蹂躙はその後もいくつも明らかになっている。
眞野さんは本書の最後にこう記している。
「入管の闇に消されたすべての方々の名誉と尊厳の回復を願ってウィシュマの魂とご遺族に本書を捧げます」。
(新田蕗子)