ロシア軍はただちにウクライナから撤退すべきである。いかなる理由があろうとも今回の軍事侵攻を正当化することはできない。プーチン大統領は、ロシア軍の戦略核を「特別態勢」に移すよう命じた。たとえ「けん制」が目的だとしても、「核による威嚇」を持ち出すことは断じて許されるものでない。
 一方、米国はウクライナのNATO加盟に向けた工作を中止すべきだ。ゼレンスキー大統領は、「一国の主権にかかわる問題」として、ウクライナのNATO加盟を主張しているが、周辺国の主権を脅かす軍事同盟への加盟は正当化されない。
 NATOは決して防衛的な組織ではない。1999年3月、NATOは国連安保理決議も経ずに域外のユーゴを空爆した。78日間続いた空爆で劣化ウラン弾3万1000発、計10トン近くが使われた。民間人の死者は1500人以上、負傷者は5000人以上にのぼり、4割が子どもだった。国際法違反の殺りくが、「人道的見地」という大義名分のもとに強行された。
 NATOはウクライナ国内で合同軍事演習をくり返し、ロシアへの圧力を強めていた。21年に入るとゼレンスキー政権は、「ミンスク2」(東部ウクライナ紛争の停戦協定)を履行しないと表明。10月にはドネツク州の親ロ派をドローンで爆撃し、軍事力でドンバス地方奪還に動き出したと見られた。これでプーチン氏は、ゼレンスキー氏との交渉の余地はないと判断したようだ。
 ゼレンスキー氏はロシアとの軍事衝突を回避するために一体に何をやってきたのか。ロシアの侵攻が開始されると総動員令を発動して18歳から60歳までの男性の出国を禁止したため多くの市民が避難できなくなった。また1回目の停戦協議を終えた直後にEU加盟を申請し、ロシアへの挑発を続けている。彼が自国の住民の保護やその安全について真剣に考えているかどうかは疑わしい。
欧米諸国は、このような人物を英雄扱いして、ウクライナへの武器供与を進めようとしているが、それはあまりにも無責任と言うほかない。そんなことをすれば事態を泥沼化させるだけだ。
 これ以上の破局的な事態を避けるためにすべきことは、ロシア軍がウクライナから全面撤退することである。(坂口竜一)