
新型コロナオミクロン株BA1の国内感染ピークは下降しつつあります。それは、政府・自民党と資本の側からの「経済対策、利権へ」という大合唱の始まりでもあります。今回は新型コロナウイルスが「感染症法2類扱いなのか5類扱いなのか」に焦点をあてます。(小柳太郎)
オミクロン株BA1
新型コロナウイルスは短い期間に次々と変異します。デルタ株まではCTスキャンで肺全体に「GGO」と呼ばれるすりガラス状の淡い影が出ました。ところがオミクロン株になると、鼻や喉のあたりで増殖するため、一般的な細菌性肺炎の画像に近いものになります(東京医大・八王子医療センター呼吸器内科/寺本信嗣・教授)。
つまり、免疫暴走(サイトカインストーム)による重症肺炎の危険性は大きく下がるのです。基礎疾患のない人が感染しても重症化しにくい一方、高齢者や基礎疾患を持つ人たちには依然として重大な脅威です。統計データでも、デルタ株までは死亡者が50〜90歳に比較的均等に分布してましたが、オミクロン株では70歳以上の死亡者が90%を占めます(前出/寺本教授)。BA2以降の変異株がどうなるかはわかりませんが、今後は高齢者、障がい者、基礎疾患を持つ人への医療、介護対策の充実が求められます。
児童への感染など低年齢化も顕著です。「子どもを預けるところがなく出勤できない」という女性労働者の深刻な現状に、保育園の充実をはじめとした対策が急務です。新型コロナ禍から2年、まだ道は半ばですが、現場は苦闘しながら試行錯誤を繰り返し、少しずつ前進しています。
「空気感染」問題
岸田内閣と厚労省、国立感染研究所は引き続き迷走しています。感染研が今年1月に公表した「新型コロナウイルスの感染経路」では、「現段階でエアロゾル感染を疑う事例の頻度の明らかな増加は確認されず、従来通り感染経路は主に飛沫感染と接触感染と考えられた」としています。屋内や飲食の機会で感染が広まっているとする一方で、「エアロゾル感染事例の増加は確認されず」として、頑なに「空気感染」を否定しています。
WHO、アメリカCDC(疾病対策センター)は、主要な感染経路が空気感染であることを認めています。2月1日、感染症や物理学など有識者8人が連名で感染研の脇田隆字・所長に公開質問状を送りました。質問状の代表である東北大学大学院理学研究科の本堂毅氏は、病気と室内換気の関係の研究で知られ、日本臨床環境医学会にも所属する物理学の専門家です。
しかし、感染研からは「お問い合わせのご意見も参考にしながら、今後とも最新の科学的な知見に基づき感染症対策に資する情報発信を適切に行なっていく所存」という回答でした。聞く耳を持たない厚労省・感染研の体質が見えます。
建て前2類
なし崩し5類
現場に混乱をもたらしているのが、「建て前は感染症法2類、なし崩しに5類で対応」です。新型コロナは発見当時、感染症法2類扱いとなりました。結核、SARS、MERSと同レベルの隔離対象で、医療行為だけでなく「おむつ交換」や床掃除も看護師など医療スタッフが行なわなくてはなりません。
20年当時、私は職場の同僚たちと「床掃除や清拭(患者の身体をきれいに拭く)だけでも、応援に行けないものか」と話しあい、調べてみました。結局、「2類扱い」が壁となり、応援を断念せざるを得ませんでした。ところが21年2月5日付けの厚労省新型コロナ対策本部の通達で、施設系介護ヘルパーに続き、訪問介護ヘルパーも「状況によってはヘルパーに要介護陽性患者の介護に入ってもらう」になったのです。
神戸市では「コロナは感染症2類扱い。ヘルパー対応ではなく訪問看護師に対応を依頼するべきではないか」という声が市議会に届き、今日まで在宅の陽性患者については訪問看護師が対応しています。しかし、全国的にはヘルパー対応がまかり通っています。
オミクロン株感染拡大のなかで、厚労省の対策本部は1月21日、「濃厚接触者となった介護従事者が、下記の要件及び注意事項を満たす限りにおいて介護に従事することは不要不急の外出に当たらないとする取扱いも可能とする旨をお示しすることにしました」(傍線は厚労省)という通達を出しました。わかりづらい表現ですが、「無症状なら出勤し、業務前に抗原検査キットで陰性確認してから介護に入れ」ということです。
これまでの「濃厚接触者は隔離」の原則が、よりによって高齢者施設介護職員に対してはなし崩しにされています。当然「感染症2類扱いとの整合性」について説明はありません。
介護現場レベルでは、感染症対策はスタッフの緊張感とモチベーションを維持しつつ、作業手順を明確にすることが実践の要ですが、「本音と建て前」の矛盾で現場は悲鳴が絶えません。
検査数は最低レベル
厚労省・感染研の体質を示すのが、新型コロナ検査数です。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏のまとめによると、「人口1000人あたりの検査数(1週間平均)、日本は1・18件でメキシコに次ぎ少なく、マレーシア(3・25件)やインド(1・27件)に及びません。多くの国は、オミクロン株の流行下でも日本とは桁違いの検査を実施している」とのこと。OECD諸国中、下から2番目の検査数です。
日本で国産PCR検査装置を生産しているプレシジョン・システム・サイエンス社は自社開発の検査システムをフランスに輸出し、駐日フランス大使から礼状をもらっています。フランスの人口1000人当たり検査数は19・44件で日本の16倍。日本でもこれくらいはやれるはずです。
現状打開の方向性は、どこにあるのか。前出の上昌広氏の提言・要旨〔左に掲載〕を紹介したい。ぜひ参考にして欲しい。
人びとの希望に応える対策を
上昌広氏(医療ガバナンス研究所理事長)
わが国のコロナ対策の基本的姿勢は、間違っている。最優先すべきは国家の防疫ではない。検査、治療を受けたい、家族にうつしたくないという国民の希望に応えることだ。世界中で在宅検査、オンライン診療、隔離施設が整備された。厚労省や日本医師会がこれらのシステムを強く求めたという話を寡聞にして知らない。結果、日本はコロナ診療体制で大きく出遅れてしまった。岸田首相は、早急に感染症法を改正すべきだ。ポイントは、国家の権限を強化し、民間病院に無理やり感染者を押し付けることではない。検査、治療や隔離を受ける権利などを感染症法で保障すること。
厚労省関係者は、国民の健康よりも医系技官の組織と特権を守ることが最優先され、コロナ対策でも抵抗とサボタージュを繰り返してきた。最近なら病床が逼迫すると「自宅療養制度」、検査が足りなくなると「みなし陽性」と言い出したことなど、その典型だ。
オミクロン株の感染が拡大し、「自宅療養」や「みなし陽性」を認めるように方針を変更するなら、感染症法の例外として明確に規定する必要がある。ところが医系技官たちは、これを「通知」で済ませてしまった。周囲の反対を押し切って、らい予防法や結核予防法を廃止した、かつての医系技官とは対照的だ。
「通知」が問題なのは、法的拘束力がない「技術的助言」に過ぎないからだ。感染症法の規定と異なる「通知」を濫発されれば、現場はどうしていいか分からなくなる。オミクロン株は軽症と分かっていても、多くの都道府県で病床が逼迫するまで感染者を入院させるのは、感染症法の規定に沿って行動するからだ。
一方、医系技官たちは「通知」により自らを免責した。感染者は検査すらできず、自宅で放置されることとなったが、医務技監や局長が責任をとる気配はない。コロナ流行以来、彼らは一度も責任をとっていない。
〔東洋経済オンラインより引用〕