欧州連合(EU)が、温暖化対策に貢献できる(持続可能な)リスト「EUタクソノミー」に原発を加えたことに、1月27日、日本の元首相5人(小泉、細川、菅、鳩山、村山氏)が、EU委員長に「原発を除外すべき」という書簡を送った。とたんに吹き出したのが激しい非難、攻撃である。(元首相たちの在任中の責任を問いたい気持ちは山とあるが、それはおいて)その内容には心底からの怒りを覚える。
 書簡の中の「(福島の)多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ」という一節に細野豪志議員、山口環境相、高市自民党総務会長、内堀福島県知事、岸田首相、自民党福島県連等が非難の声をあげた。維新に至っては「(5人への)国会での非難決議案」まで提出。
 彼らの言い分は「原発と甲状腺の因果関係は否定されている」「誤った情報はいわれのない差別や偏見を助長する」「福島の若者に不安をもたらす」「風評を広げ復興を妨げる」というものだ。
 考えてもみよう。福島県の子どもたちは(東日本の広い地域も含めて)全員が「それなりの被ばく」をしているという事実。福島県の子どもの甲状腺がん発症率の通常では考えられない高さ。病気がわかってからの手術や治療に費やされた体と心の負担の大きさ。その現実を考えれば、罹患した子どもたちが、その原因を被ばく由来ではないかと疑うのは自然のことではないか。原水爆や原発由来の被ばく者の苦痛の歴史が教えてくれるのは、被ばくの影響は数十年のスパンで見ていかなければならないということであり、それが「科学」であるだろう。
 5人の書簡を非難する人びとの本音は「原発事故はなかったことにする」ところにある。彼らの言動こそが「差別や偏見を助長し、若者やその家族に二次被害を与えるものとなる(311子ども甲状腺がん裁判弁護団の抗議声明)」のだ。
 昨年秋、福島県内の市民放射能測定室の人から聞いた話がある。「最近、甲状腺検査に若者が訪れる。聞くと『事故当時から子ども心に不安な毎日だったが、親は無関心だった。今は自分で選択し行動できるようになったので受けに来た』と。多くの子どもたちがどんなにつらい思いでいたのかと、自分たちの活動の不十分さを振り返っている」と。
 あれから11年、ロシアのウクライナ侵攻は、改めて、強烈に原発の危険性を突きつけた。「原発事故を無きものにしたい」力に抗って、若者の裁判を応援したい。(井村希美子)