
現代ドイツ政治の木戸衛一さん(大阪大学教授)が「2021年の日本とドイツの総選挙」をテーマに講演した(3月26日、大津市内/文責・本紙編集部)。
長期政権
メルケルが16年間安定した政権を続けることができたのなぜか。その前の社民党シュレーダー政権は、ユーゴ空爆(99年)や新自由主義的な規制緩和(ハルツ改革)を強行したが、これにたいしてメルケルはCDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)と社民党の連立政権下で、脱原発への転換や徴兵制「中断」をおこなった。
シュレーダー元首相はロシアのプーチン大統領と親しい。首相退任後は、ロシアの国家コンツェルンの重役に収まっている。そのため現在、社民党から除名されそうになっているのだ。
復活した社民党
CDU/CSUと連立政権を組んでいる間に凋落した社民党だったが、最近は社民党青年部(JUSOS)委員長のケビン・キューナートら若手の突き上げによって変わってきた。彼らは「社会主義」の強調と「大連立反対」で、2万人の新規党員を獲得。19年11月の党首選では「連立懐疑派」がショルツらに勝利した。21年9月の連邦議会選挙では25・7%の得票で第1党になった。その206人の議員団中、女性が86人、半数以上が新人、40歳未満が68人、移民が背景の人が35人となり、キューナートは幹事長に就任した。緑の党、自由民主党との「信号連合」で連立を組んだ。
混迷する連立政権
連合政権協定では、「自由・公正と持続可能性のための同盟」を打ち出し、「自由」は自由民主党、「公正」は社民党、「持続可能性」は緑の党の方針だ。しかしコロナパンデミックとウクライナ情勢でこれらの方針の実現はすべて不可能になった。社民党は「ハルツ改革」以前に戻したかった。自由民主党は「財政再建」をやりたかった。
ウクライナ戦争の勃発で、ロシア産天然ガスは当てにできなくなった。軍事費の大幅な増額に踏み切り、徴兵制を復活も議論の俎上にのぼるなど混迷を深めている。これに対して若者たちによる反戦・反軍拡の動きが拡大している。
今年ドイツでは4つの州議会選挙がある。そこで社民党政権の中間総括が問われるが、結果がどうなるかは予想のつかない状況だ。あくまで市民主体の政治を追求していくことが課題である。