「ロシアのウクライナ侵攻と民主主義の危機、再生」「日本の改憲動向」について高作正博さん(関西大教授)の憲法勉強会が開かれた(3月中旬、神戸市内)。高作さんは、「大国ロシアの位置、米・NATOとの対抗」「旧ソ連解体後の民主化の内容」「民主主義の危機と再生、改憲論への影響」などについて話した。要旨を紹介する。(取材/竹田雅博)

民主主義とは通常、政党政治が存在し選挙がおこなわれ、報道、表現の自由があるなどとされる。トランプ政権の登場は「民主主義の内部崩壊」とも言える状況をもたらした。今回のロシアのウクライナ侵攻も、民主主義を「外から壊した」と言える事態ではないか。
 
民主主義と独裁
 
「旧共産圏から生まれた民主主義国家」、ポーランド、ハンガリー、ロシアなどで次々と独裁政治と権威主義が登場した。その傾向は2010年以降、顕著になった。
西側をまねて大統領選挙が行なわれるようになったロシアでも、早くから選挙は有名無実化していた。00年代、プーチンが大統領になると、選挙は「選ぶ」のではなく、「他に選択肢がない」セレモニーと化した。
 
「欧米の模倣」
 
西側の政治制度や政策を模倣するロシアなどの東側諸国は、欧米諸国より劣るとみなされる。そのため、「模倣」に対する反発が生まれた。
冷戦時代には資本主義か社会主義かという選択肢があったが、ソ連崩壊によって、欧米による一方的な「模倣の押し付け」という一択になった。「模倣の押し付け」は、地域の伝統や考え方などを無視した、「強いられた民主主義」となる。「模倣される国」(欧米)は「模倣する国」を監視し、評価する権利を主張する。それは上下関係であり、「模倣する側」にとっては愉快ではない。(『模倣の罠—自由主義の没落』イワン・クラステフ、スティーブン・ホームズ)。
99年、NATOは「人道的介入」を理由にユーゴを空爆し、コソボを国家承認した。これと同じようにロシアは、「人権保障のため」を理由にグルジアの南オセチアを占領し独立を承認(08年)。またウクライナのクリミア半島を併合した(14年)。プーチン大統領の思考と行動は「西側と同じことをやっているだけ」という論理が背景にあるだろう。もちろん、それでウクライナ侵攻が許されるものではない。
 
改憲論への影響
 
 日本の「憲法改正」問題に、ロシアのウクライナ侵攻がどう影響するのか。特に憲法9条との関係である。
 9条は「戦後、軍事力や戦争がもたらす悲惨な結果を二度と起こさない」という誓いから誕生した。当時の政府見解は「自衛戦争、自衛権も放棄」だった。「あらゆる軍事力は持たない」ということだ。立憲主義に基づいて、「日本が他国に武力行使をしない」ように政府を縛ってきた。すなわち、日本政府がロシアのような軍事侵攻をしないように制限をかけるところに憲法9条の意義がある。
しかし、「攻められたら」どうするか。9条は「他国から侵略されない」という保障にはならない。そのためには経済交流、外交努力による緊張緩和が大切だ。「それは非現実的だ」という意見があるが、それでも、戦争はしてはならないのである。    (つづく)