
3月9日の韓国大統領選挙で、与党「共に民主党」のイ・ジェミョン氏が、野党「国民の力」のユン・ソギョル氏に敗れ、ろうそく革命で誕生した民主党政権が5年間でその幕を閉じた。その票差は得票率でわずか0・73%。最後に発表された世論調査(3月1〜2日実施)では、ユン・ソギョル氏がイ・ジェミョン氏に5%の差をつけていた。それがどうして僅差となったのか。在日韓国研究所代表の金光男さんが韓国大統領選を分析した。(4月2日京都市内で講演/取材・文責=本紙編集部)
マンション価格の高騰
民主党政権にたいする最大の不満は5年間で2倍以上はね上がったマンション価格の高騰だ。マンションが投機の対象になったことに、民主党は税制と金融政策によって投機の抑制を目指したが、歯止めがかからなかった。
その失敗の責任を政権内部で取るものはいなかった。それどころか、「すべての国民が江南に住む必要ない」と発言したチャン・ハソン政策室長が江南のマンションに居住。政府高官に「居住用以外のマンションの売却」を指示していたノ・ヨンソン秘書室長が、実は複数の住宅を所有。「身内に甘く外へはきびしい」民主党の体質に人びとは怒り、失望した。
既得権勢力化した
86世代
チャン・ハソンは韓国の進歩NGO・参与連帯の出身。ノ・ヨンソンは学生運動出身で投獄経験もある人物だ。
韓国では60年代生まれで、80年代に大学生だった人びとを86世代と呼ぶ。民主化闘争を担った86世代が既得権勢力と化していたのだ。そのことが大統領就任時、「財閥改革の先頭に立ち、非正規雇用問題の解決の道を探り、差別のない世の中をつくる」と宣言したムン・ジェインの限界となった。
公共機関の非正規職はゼロ化したが、雇用労働者の48%が子会社採用にかわっただけだった。労働者全体では非正規職は増大し、賃金格差も拡大した。最低賃金の引き上げ率も、パク・クネ政権の実績を下回った。労災死亡者の50%削減(17比)を目指したが、21年実績で73%にとどまった。
その原因は明らかだった。国会や地方議会で圧倒的多数を占めた民主党が進歩的アジェンダの足を引っ張っていたのだ。
政権交代論
20代男性の民主党政権に対する失望に目をつけた国民の力代表のイ・ジュンソクは「君たちが公正な社会で生きることができないのは民主党の政策のせいだ」と政権交代論をうちだし、若者たちの民主党への反感を爆発させようとした。
さらに彼は、「20代男性を苦しめているのはジェンダー平等だ」とし、「敵は女性だ」と訴えた。ユン・ソギョルは女性家族省を廃止し、その予算でミサイルを購入することを公約にした。
その結果どうなったか。20代から50代までの女性が一斉にイ・ジェミョンに投票した(表参照)。ジェンダー平等破棄を掲げたユン・ソギョルに対して女性たちが結束して起ち上がったのである。それが予想外の僅差に迫った原動力だった。