なぜ憲法を変えてはならないのか? 早稲田大学教授の水島朝穂さんが、大阪市内で開かれた集会で講演した。要旨を紹介する。(池内潤子)
 
両国の比較
 
ウクライナは教育水準や技術水準が高く、軍事力の水準も高い。2014年のマイダン革命以来、政府内部に極右主義的な勢力が浸透しており、彼らはウクライナ東部の都市マリウポリなどを拠点としている。ゼレンスキー政権は危険な側面を持っており、ウクライナを全面的に支持することはできない。
一方ロシアは、14の国と接する国境線は2万キロにおよぶ。人口減少が続いており、総兵力は90万人。陸軍はたったの33万人で戦車は旧式である。ロシアを軍事大国とするのは過大評価である。
 
プーチンの憲法改正
 
2020年プーチン大統領は憲法を改正した。メディアを利用し、「みなさんの手で憲法を変えましょう」「みんなが参加しよう」とキャンペーンし、多数の条項を一括で改正してしまった。
そのひとつが大統領任期の延長だ。「3選禁止」の条項は変えずに、「すでに大統領職にある人には適用しない」という但し書きを付けることで、任期延長を可能にした。首相も大統領が直接任命できるようにした。
さらに、「ウクライナはロシアと一体である」という古い大ロシア主義を憲法の中に書きこんだ。ウクライナ侵略は憲法上正当なものになったのだ。領土問題について何らかの交渉をすることは憲法違反という条文も入った。これによって「北方領土交渉」はロシアでは違憲になるのだが、それに安倍元首相が気づいている節はないようだ。
 
憲法は生きている
 
自民党改憲案は9条を変えるだけではなく、基本的人権の尊重を確認した97条を削除したり、憲法36条の「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」という条文から「絶対」を削除したりするものになっている。
国家に対して「戦争してはならない」と最も強い縛りをかけているのが日本国憲法だ。安倍政権は2015年の閣議決定で、集団的自衛権の限定行使を容認したが、ウクライナ事態で集団的自衛権を行使することはできない。まだ憲法の歯止めは生きている。9条を変えない限り、海外における武力行使はギリギリのところで抑えられる。
平和を愛する民衆が連携して、ロシアの軍事行動を抑え込み、NATOや軍需産業の市場開拓に協力しない、税金をそういうものに使わせないことが重要だ。