
大型連休明け、新型コロナ感染拡大が懸念される。岸田内閣は感染対策をほとんどおこなわないままの経済、参院選人気優先の連休となった。政府の無為無策の犠牲を被るのは、いつも働く人びとや市民である。介護の現場をベースに検証してみる。(小柳太郎)
BA2は弱くない
新型コロナウイルス(以下ウイルス)は、オミクロン株BAからBA2へと置き換わりが進んでいる。BA2はBA1と同様に、免疫暴走(サイトカインストーム)による重症肺炎の危険性が大きく下がっている。ただし、基礎疾患のない人が感染しても重症化しにくい一方、高齢者や基礎疾患がある人には重大な脅威となる。統計データもデルタ株までは、亡くなる人が50〜90歳に比較的均等に分布していたが、オミクロン株では70歳以上が死亡者の90%を占める(寺本信嗣・東京医大八王子医療センター呼吸器内科教授)。
BA2はオミクロン株に分類されるものの、直接にBA1が変異したものではないことがわかっている。一部で期待される「新型コロナは変異が進むと毒性が弱くなる」という楽観論は科学的でないことを示している。
徹底した検査体制を
ウイルスは世界中に無数といってよいほど変異株が拡がっている。ただし、感染力にはそれぞれ強弱があり、もっとも強いものが世界に拡がる。強毒性の株が強い感染力を獲得する危険性はなくなっていない。徹底した検査体制をもとに、科学的根拠をもった感染対策が求められる所以である。
日本のPCR検査数は、人口1000人あたり(1週間平均)1・18件でメキシコに次いで少なく、マレーシア3・25件、インド1・27件に及ばない(上畠広・医療ガバナンス研究所理事長)。OECD諸国中、下から2番目の検査数である。多くの国は、オミクロン株の流行下でも日本とは桁違いの検査を実施している。これを改善しないかぎり、正しい感染対策は生まれない。
参院選前に引き下げか
4月22日の参院本会議で、新型コロナ感染症の感染症法の扱いを現状の2類からインフルエンザ相当の5類に引き下げるかどうか議題に上がった。野党議員から「5類引き下げ」要求の質問がされ、岸田首相は「現時点で5類変更は現実的ではないとは考えている」と答弁。「タイミングをみて引き下げる」姿勢を見せた。参院選(7月10日投票)にむけ、新型コロナ感染症対策を政治の駆け引き道具にしようとしている。
感染症法改定について上昌広氏は次のように指摘する。「わが国のコロナ対策の基本的姿勢は間違っている」「最優先すべきは国家の防疫ではない」「検査を受けたい、治療を受けたい、家族にうつしたくないなど国民の希望に応えることだ」「感染症法を改正すべき。その際のポイントは国家の権限を強化し、民間病院に無理やり感染者を押し付けることではない。検査、治療、さらに隔離を受ける権利などを感染症法で保障することだ」。
政府と野党の「5類引き下げ」論争は、目前の選挙のための駆け引きとなってしまう。「第7波」にむけた有効な対策は期待できない。
厚労省・医系技官の腐敗
むしろ参議院選挙で問題にされるべきは2年に及ぶ厚生労働省、とくに医系技官の腐敗したありようだ。最初のダイヤモンド・プリンセス号事件で、現場を大混乱に陥れた大坪寛子氏は多くの批判が集中し、20年4月3日付で内閣府・内閣官房の役職兼務は解任された。しかし安倍内閣が肝いりでつくった内閣府健康・医療戦略推進事務局次長として居座り、厚労省の人事と財政に大きな権限を持っている。安倍側近の首相補佐官との「コネクティングルーム問題」など厚労省の人事、組織腐敗を示す事案もあった。こういう人物が、いまだに感染対策や医療における権力を有している。
「空気感染」でも迷走
厚労省・感染症研究所は迷走している。感染研は、今年1月13日に「オミクロン株」報告書を提出、「現段階でエアロゾル感染を疑う事例の頻度の明らかな増加は確認されず、感染経路はおもに飛沫感染と接触感染と考えられた」と記し、WHOなどと異なる説明をしていた。
これに対し2月1日に感染症や物理学などの有識者8人が連名で脇田隆字所長に公開質問状を送った。感染研からは開き直りの回答が返ってきただけ。3月28日、感染研は態度を一変させ、「ウイルスを含んだ空気中に漂う微粒子(エアロゾル)を吸い込んでも感染する」と見解をホームページで公表した。
ジョンズ・ホプキンス大学研究チームは「パーティションが気流を妨げ、コロナの伝播を増加させる」と、換気を阻害するパーティション設置に警告を発している。一方、政府広報「新型コロナウイルス対策・22春の感染拡大防止篇」では、パーティションの使用を推奨する。
CO2濃度を指標に
これからのコロナ対策の基本となる換気は、どうすればよいか。空中の二酸化炭素(CO2)濃度を換気の指標とするのが有効だろう。人間の吐く息には二酸化炭素が含まれる。その濃度が高いということは、吐いた息が室内にこもっているということ。
今は、CO2モニターが多数市販されており、5000円〜1万円程度で購入できる。CO2モニターを使い、職場や自宅のCO2濃度を測定すれば、部屋の換気状況がわかる。ちなみに、人がいない状態で空中のCO2濃度は約410ppm。厚労省は良好な換気基準を1000ppm以下としているが、アメリカの科学雑誌『サイエンス』の論文では、室内のCO2濃度を700〜800ppmに抑制すれば感染は拡大しないとしている。アラーム機能付きモニターなら、さらに効率的に換気ができる。
コロナ対策は換気が基本。それを補うものとしてHEPA(浄化)フィルター付き空気清浄機や紫外線を天井付近で水平照射し、浮遊するコロナ粒子を不活化する装置なども有効とされている。これらの知見にもとづいた対策を現場、とくに子どもたちが集まる学校や保育園にすみやかに広げていくべき。
介護の現場では、これから夏場の熱中症対策と換気の両立が頭の痛い問題になる。換気と冷暖房が同時にできる高機能エアコンもあるが、6畳タイプで25万円とかなり高額。限られた時間と予算と人手で新型コロナ対策をするのは容易ではない。
それでも私たちは自分を守り、家族や職場や周りの人びとを守り、ともに生きていかなければ。暮らしに根ざしたコロナ対策を一つずつ積み上げていく。
従来、コロナを含め呼吸器ウイルスは、咳・くしゃみ・会話を通じて放出される分泌物(飛沫)を介し周囲にうつると考えられてきた。通常、そのサイズは数百μm(マイクロメートル、1μは100万分の1)の大きさ、いったん放出されても20センチメートル程度以内で地面に落下し、地面に落ちると感染しない。
一方、エアロゾルの大きさは通常百μm以下で、数μmのものも多い。この微小な粒子が空中に放出されると、その温度が約37℃と気温より高いため、すぐに上層に移動する。その間に水分が蒸発する。結果、ウイルス粒子が濃縮された微小なエアロゾルが形成され、数時間にわたり空中を浮遊しながら移動する。閉鎖空間なら上層に蓄積する。その場に居合わせた人が、濃縮したコロナ粒子を吸い込めば感染する。
現在、コロナ感染の主体は、このようなエアロゾルの吸入による空気感染であることが世界的なコンセンサスとなっている。(上畠広・医療ガバナンス研究所理事長)