自民党は4月27日、岸田文雄首相に「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」を提出した。安全保障とは、「国の領土保全と政治的独立、国民の生命・財産を外部の攻撃から守ること」をさす。そこには当然、外国の侵略や隣国との戦争を未然に防ぐための方策が含まれなければならない。政治・経済・外交である。ところが今回自民党が提出した提言には、そうした領域に関する言及が一切ない。軍事力の増強がすべてなのである。
日本国憲法の前文では、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにする」ことを日本人民の決意として謳っている。ところがこの提言は政府に対して、「戦争の準備を整えよ」と勧告しているのである。
提言の核心は「反撃能力の保有」である。これは「敵基地攻撃能力」の単なる言い換えではない。従来の日米安保の解釈では、日本の役割は自国の領域内の防衛に限定され、相手国への攻撃は米国が行うことになっていた。ところが「反撃能力」と言う名目では日本が米国の攻撃の一翼を担うことになるのだ。これは明らかに「専守防衛」の逸脱である。
「反撃能力」の対象は、ミサイル基地に限定されず、「相手国の指揮統制機能等も含むもの」へと拡大されている。つまり相手国のどこへでも攻撃するということだ。
この間、政府は日本の脅威を「北朝鮮のミサイル攻撃」としてきたが、提言の仮想敵国は中国だ。提言は米国と中国の間では「第二の冷戦」が進行しており、日本は「最前線に立たされている」と位置づけている。だから日本も米国とともに中国本土攻撃の一翼を担うというのだ。そのために大幅な軍備増強、軍事費の対GDP比2%への引き上げ、強力な軍事産業の構築、武器輸出の拡大、軍事研究開発の推進、民生先端技術の軍事転用、地域社会の動員などが必要とされる。自民党は、ウクライナ危機に便乗して、本気で対中国の総力戦体制を準備するつもりなのか。それは日本とアジアを破滅させる愚挙である。(深田京二)